超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

闇と蝶

 暗い廊下の先に気配を感じたのでマッチを擦ってみると、薄明かりの向こうに裸の女の背中が見えた。近づいてみるとどうも見覚えがある気がしたが、誰の背中だったか思い出せない。うなじの様子だとか、ほくろ一つない真っ白な肌だとか、もしかしたら前に見た映画か何かの記憶がごっちゃになっているのかもしれなかった。

 そんなことを考えていると、女の滑らかな肌の上に、ちろちろと黒いものが動いていることに気づいた。それは小さな蝶の影で、影があるんだから蝶そのものもいるだろうと思ってマッチをあちこちにかざしたが、見つからなかった。

 もう一度背中の前にマッチをかざすと、蝶の影が増えている。そのうち肩のあたりを飛び回っていた影が女の顔の方に回りこみ、女と何かひそひそ話を始めた。なぜか急に薄気味悪くなり、慌ててマッチを吹き消した。

 明かりが消える直前に、女がこちらを振り向きかけたが、その顔が見える寸前に廊下に闇が戻り、気配も消えて、それから思い出したように、雨戸の隙間から月明かりが差してきた。