超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

森と夕日

 目が覚めると、昨日までなかったはずの窓があった。
 窓の外では夕日が沈みかけていた。しかし山の向こうに消えていくはずの夕日が、今日は山の手前に繁る森の中に落ちていく。
 不思議に思い窓を開けると、一番高い樹が葉をざわざわと揺らし、夕日が来たのを喜んでいるような音を発していた。からかうように「浮気者」と叫ぶと、樹は太くしなやかな枝で夕日を抱きながら、「うるさいガキだ」とつぶやいた。悔しかったので窓を閉めもう一度眠ったが、目が覚めても窓は消えていなかった。