超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

貝と居酒屋

 友人の馴染みの居酒屋で呑みながら色々なことを話しているうち、誰もいなかった店内に客が集まり出した。
 裏路地にある目立たない店だが、常連客は多いらしく、すぐに狭い店内は人でいっぱいになった。にわかに厨房が忙しくなり、酒のにおいと煙草の煙が、店内の人間を一つに束ねるように充満しはじめた。
 外は雪が降っていたが、店の中は人の気で、いつの間にか汗がにじむほど暑くなっていた。私も友人も上着を脱ぎ、まわりにあてられていつになく陽気に騒いでいたが、隣同士でさえ大声で話さないと聞こえないくらい賑やかになってきた頃、座敷で呑んでいた背広の連中が私の友人に気づいて自分の席に連れていってしまった。
 一見の私は急に居心地が悪くなったので帰り支度を始めたが、時計を見るとまだ八時を回ったばかりで、すぐに帰るのも何となく惜しいような気がしたので、結局ビールと刺身を追加し、友人が戻ってくるのを待つことにした。会話する人もなく手持ち無沙汰でいると、ふと店内のテレビが目に入った。ナイターでもやっているかと思い目を凝らすと、警察密着もののドキュメンタリーのようだった。周りの客の話し声で音声は何も聞こえなかったが、暇つぶしの相手はこれしかなかったので、刺身をつまみながら何となく画面を眺めていた。
 カメラは夜の公園と、そこで眠るホームレスたちを写していた。みな厚着をして、ブルーシートや段ボールの中で丸くなっている。
 白い息を吐きながら彼らに話しかける警官とのやり取りがしばらく続いたあと、やがてカメラマンが公園の隅に、巨大な皿のようなものを見つけた。不審な顔をする警官が懐中電灯で照らすと、それは巨大な二枚貝の貝殻だった。しかし蓋にあたる方の貝はなく、片側の貝殻だけが黒い土の上に冷たく置かれている。中を覗くと、白々しく光る貝の中に、ビールの空き缶とか食べ物のカスのようなものが散乱していた。
 私はその貝に何か見覚えがあるような気がして、そう思った途端何だか背中がうそ寒くなったので、上着を着なおした。そしてビールを一口啜り画面に目を戻すと、カメラは街灯の下のごみ箱を漁る、髪の長い裸の女をとらえていた。寒い中裸でいるせいで、女はガタガタ震えていることが遠目でもわかった。
 しかしカメラが女にズームするにつれ、そのウェーブのかかった向日葵色の髪と、股間を髪の束で隠すしぐさがはっきりと見えてきて、私があっと声を上げた瞬間、どういうわけかテレビの画面がじりじりと音を立てて歪み、ついには砂嵐になってしまった。店の女将に声をかけようかと思ったが、女将はカウンター席の客との会話に夢中だった。他の客たちもテレビの異変には気づかず、私自身さっきの続きを見たいようなそうでもないような妙な気持ちになっていたので、結局そのまま放っておくことにした。座敷に目をやると、私の友人が尻を出して踊っているのが見えた。