トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。だいたい土曜日更新。

遊園地と酒

 デリヘルで遊園地を呼んだ。こういうものを利用するのは初めてだった。そわそわしながら待っていると呼び鈴が鳴った。
 電話で注文したとおりの遊園地だった。若くはないが魅力的な目をしていた。厚手のセーターの下で、ゴツゴツとした鉄の塊が静かに息をしている。手には酒の入った籠を持っていた。
 気を遣わせてしまったことを詫びながら部屋に入れる。片付けてはおいたが、男の一人暮らし独特の臭いは消えない。それが何だか恥ずかしかった。適当な世間話をしていると、遊園地が「シャワーお借りしていいですか?」と言うので風呂場に案内した。「いっしょに入りますか?」とも言われたが、何だかもったいない気がして断った。ベッドの上でラジオを聴きながら待っていたが、番組の内容など頭に入ってこなかった。
 しばらくすると、バスタオル一枚の遊園地が風呂場から出てきた。遊具のあちこちから湯気を漂わせながら、僕の隣に座ってにこりと微笑んだ。僕が黙っていると遊園地は籠に入った酒瓶を一本手に取り、慣れた手つきで栓を抜いた。爽やかな香りが弾けた。シャンパンのようだ。遊園地は瓶に直接口をつけて半分ほど飲み干したあと、残りを僕に差し出してきた。そこではじめて喉がカラカラなことに気づいた。何をそんなに緊張しているのか。僕は受け取ったシャンパンを一気に飲み干した。
 突然頭がぼうっとして、気がつくと遊園地は僕に跨っていた。
 気持ちよさに恍惚としていると、左足に鋭い痛みが走った。見ると、腿の辺りから血が出ていた。メリーゴーラウンドの屋根の先端が刺さったらしい。
 血が止まらない。どうするべきか考えていると、遊園地が僕に跨ったまま体をぐぅと曲げ、鉄の舌で腿の血を舐め取った。観覧車のゴンドラの窓に、僕の瞳がくっきりと映っていた。遊園地が笑ったので、僕も笑うことにした。部屋の隅で、厚手のセーターがきちんと畳まれて、時間が来るのを待っていた。
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