超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

花と蝶

 巨大な蝶に、庭の花々を吸い尽くされた。気がついたときには、丹精込めて育ててきた瑞々しい花々はすっかり萎れ、色とりどりの老婆の乳房があちこちにぶら下がっているような様相を呈していた。思わず「おい!」と怒鳴ると、蝶がこちらを振り向いた。まだ若い小娘だ。しかし、怒りで震える私と目が合っても、平然としている。すぐにふん捕まえて正座させ、「どうしてくれるんだ」と問い詰めた。

 難解な蝶の言語と花臭い息に悪戦苦闘しながら聞いた話によると、要するに「恋をしているので甘いものが欲しくなってしまった」のだという。よくわからないがそういうものなのか。「弁償なり何なりしてもらわないと困る」と詰め寄ると、「それより花占いがしたい」と言う。
 怒りやら呆れやらで声を裏返しながら「お前が吸い尽くしたんだろう」と怒鳴ると、「そうね。でも、私には羽があるのよ」と勝ち誇った顔で言う。「やってみろ」とけしかけると、蝶は右の羽をちぎって「好き」、左の羽をちぎって「嫌い」と言ったあと、黙ってうつむいてしまった。
 もはや蝶ではなくただの芋虫だ。
 さすがにかわいそうになり、それ以上は何も言わず帰してやった。ふん捕まえるとき手についたりんぷんは、クレンザーを使ってやっと落ちた。