超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

墓と漫画

 用事のついでに妹の墓参りに行ってきた。
 夕方の墓場に人影はなかった。妹の墓石の上で、太った猫が眠っていた。線香を供え、刻まれた名前を読み、何か声をかけようとしたが、何も思いつかなかった。
 墓石に触れてみると、ひんやりとした心地よさが伝わってきた。辺りはほどよい静けさに包まれていた。線香はゆっくり灰になっていった。立ち並ぶ墓々の向こうで、夕日が沈み始めていた。
 そろそろ帰ろうと立ち上がった時、ふいに墓石が低い音を立てて震え始め、同時に視界の端に小さな光が灯った。光は墓石の背後から漏れていた。裏に回ってみると、墓石の背面に自動販売機が埋め込まれていた。携帯のストラップや、髪ゴムや、古いアダルトビデオなんかが雑多に並べられている。スナック菓子とスポーツドリンクの間には、妹の好きな漫画の新刊が並んでいた。試しに小銭を入れてみると、寂しい音がした。
 結局スナック菓子を一つ買って墓場をあとにした。猫はいつの間にかいなくなっていた。