超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

キリンとコメディエンヌ

(明け方。棚とベッドだけの簡素な部屋。ベッドには一人の女が眠っている。棚には様々な動物のフィギュアが並べられている。窓枠にはコンビニのおでんの容器があり、水の入ったコップがあり、遺書があり、携帯電話があり、カーテンの隙間から漏れる光が、それぞれにふさわしい影をあしらっている。激しく咳き込む声、続いて床にごろりと物が落ちる音。)

 朝起きると、床に私の頭が転がっていた。喉が異様にひりひりする。
 どうやら寝ている間に、頭を吐いてしまったらしい。

(首のない体が立ち上がり、水の入ったコップを手に取る。片方の手で頭を持ち上げ、窓枠に並べる。)

 喉は渇いているが、果たしてこのまま水を飲んでも大丈夫なのだろうか。

(頭の下に雑巾を敷く体。そのまま頭に水を飲ませる。雑巾が濡れる。)

 案の定、全部流れ出てしまった。

(ベッドに腰掛ける体。)

 飲む薬を間違えたのかもしれない。

(頭を手に取り、頬を撫でる体。)

 冷たくて柔らかかった。

(おもむろに携帯を手に取る。)

 一ヶ月ぶりに携帯の電源を入れた。電話もメールも届いていなかった。
 昨夜見た夢を思い出す。忘れたと思っていた人が何人も現れた。

(立ち上がり、棚からキリンのフィギュアを持ってくる体。)

 これ、欲しい人がいればあげるのに。

(キリンを拳銃のように構え、頭のこめかみに突きつける体。)

 可愛い殺され方だ。

(ベッドに倒れ、動かなくなる体。)

 あいつ電話するって言ってたよな。あれ?

(体、寝返りをうつ。)

 まぁ、いいや。
 まぁ、いい。

(体、起き上がり布団を細長く丸め、その先端に頭を据え付ける。カーテンを開け、服を脱ぎ、股にキリンを挟む。股からキリンの首がにゅっと出ている。体、丸めた毛布にのしかかり、腰を激しく動かす。しばらくそれが続いたあと、突然動きを止める。)

 バカか。

(体、窓の外へ頭を放り投げ、窓枠に置かれていた遺書やコップを外へ押しのける。窓の下から悲鳴が聞こえてくる。体、最後に自ら身を投げる。丸めた毛布に頭を突き刺したキリンが、ベッドの上で朝日を浴びている。)