遠い場所に住んでいる恋人が詩を書いて送ってくれた。
嬉しくて嬉しくて、肌身離さず持ち歩いていたら、飼い犬が嫉妬してしまった。
ある晩胸騒ぎがしてベッドから身を起こすと、飼い犬が詩の喉元に噛み付いていた。
恐ろしくて恐ろしくて、何も出来ずに眺めていたら、飼い犬は動かなくなった詩をぺろりと平らげてしまった。
それから、恋人から詩が送られてくるたびに、飼い犬がこっそり殺して食べてしまうようになった。どう巧妙に隠しても犬の嗅覚はごまかせない。
結局諦めて、送られてきた詩をその日の晩ご飯として献上する日々が続いた。
恋人に申し訳なくて泣いていたある日、飼い犬の様子がおかしいことに気づいた。鏡や水たまりを極端に恐れるようになったのだ。
何事かと思い、抱きかかえたまま鏡台の前に座ってみると、鏡の中の飼い犬のからだに、無数の舌が絡み付いていた。
やはりあの詩は私のためのものなのだ。
嬉しくて嬉しくて、受話器を取った。