超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

いつも

 元の私に着替えてくるから、そこで待ってて、すぐに済むから。
 いつものようにそう言って彼女は窓枠に腰かけ、カーテンをさっと引いた。

 ベッドに身を沈めラッコみたいな格好で天井を眺める。
 カーテンが目の端で揺れるたびに、紙切れみたいな光の欠片がちらちらと動いた。

 深く息を吐き、
 目を閉じて、さっきまでのことを思い出そうとしたが、うまくいかなかった。
 いつもそうだ。

 寝返りを打ちベッドの脚を撫でてみる。
 ささくれていて、冷たくてザラザラしている。
 ふいに涼しい風が背中を通り過ぎる。
 昼間の雨が夕方頃にやみ、お陰で今夜はだいぶ涼しかった。

 じゃあ帰るね。
 彼女の声が聞こえた。
 再び寝返りを打ち、窓に目をやる。
 いつの間にかカーテンは開いていて、彼女の姿はなかった。

 窓の外で、月が音もなく夜空を照らしている。
 たくさんの星がぼんやりと浮かんでいる。

 いつものように目をこらし、そのたくさんの星の中から、元の姿に着替えた彼女を探してみたが、うまくいかなかった。
 いつもそうだ。