超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

蛇と笛

 ずっと昔、酔った女を俺の部屋で介抱していた時、乾いた寝息を立てて眠る女の首筋に、いくつもの穴が空いているのを見つけた。
 何気なく指で一つの穴を塞いでみると、女の寝息の音色が少し変わった。エキゾチックな感じの不思議な音色で、聞いていると体中の骨や肉をむずむずと心地良い痒みが襲う。
 面白くて穴をかわるがわる塞いでいると、段々と何かメロディのようなものが出来上がっていった。それと同時に、穴を塞ぐ俺の指が、タップダンスでも踊っているかのように、激しく動き出して止まらなくなった。
 半笑いのままどうしたものか考えていたら、窓の外にふと視線を感じた。おそるおそる目をやると、俺の部屋の前の排水口や雨樋の隙間から、色とりどりの無数の蛇が首をもたげている。驚いて女を起こそうとしたら、女が夜の闇を飴で固めたような瞳でじっと俺を見つめていた。