今朝はお母さんの体調が悪かったので、学校の昼休みに開けた弁当箱には、詩集が入っているだけだった。
動物園の飼育員だった父の位牌を、猿たちに玩具として与えたが、猿たちは手を合わせるばかりで全然遊ばない。
お父さんの浮気相手を描く時は色々な色のクレヨンを使うから楽しい、と少女は思っている。
裏路地の塀に貼られた「忌中」の紙に、誰かが「(本当だよ)」と書き足した。
今夜の小さなコンサートが終わったら、そのピアニストは、自分の指を指屋に売り、得た金で花嫁を迎えねばならない。
いつも晩酌に付き合ってくれる妹の人魂が、今夜は私の見知らぬ人魂を連れてきた。
ずっと拾われない捨て猫の傍らに、誰かが招き猫を置いた。
拾い物のそのテレビは、海の映像を映したがらない。
祖父の畑で採れるトマトは、影まで赤い。
くしゃみを我慢した瞬間、鼻の穴の中から、舌打ちが聞こえた。
今日もその少年の幽霊は駄菓子屋の店先で、子どもたちが食べるアイスの棒を覗き込み、当たりが出たかどうか確かめている。
結局使わなかった遺書で紙飛行機を折って飛ばしたら、急旋回して俺の胸にぶつかって落ちた。
あの猿のことはもう忘れて、と俺を抱きしめた妻から、ふわっ、とバナナの香りがする。
明け方のゴミ収集所でゴミ見酒を楽しんでいたら、余興に、カラスが舞を舞ってくれた。
うちの子が泣き叫ぶたびに、隣に住んでる女が、その泣き声をバイオリンで再現して聞かせてくる。
葬儀場の客引きを軽くあしらって墓参りに行く。
恋人が私に、「両親に会ってほしい」と言って、ポケットから「父」「母」と刻まれた二枚の金属板を取り出した。
夜中、家の前の道を、納豆をかき混ぜる音が近づいてきて、やがて遠ざかっていく。
誕生日プレゼントとして父から貰った新品の蝿捕り紙を手に、少年がゴミ捨て場へ駆けていく。
父の死体にたかる蝿を見て、母は食虫植物を買ってきた。
彼女は蝿の群れを従えてやってきて、殺虫剤売り場で待ってるわ、と僕に耳打ちをして去っていった。
お母さんのことを思い出して泣いてしまったので、お母さんの墓前に、罰金の百円を置きに行く。
神社の賽銭を盗んで買った宝くじで一等が当たり、恐ろしくなってくじを破り捨てる。
一人暮らしの家で、真夜中、包丁をしまっている戸棚から、カタッ、と音がする。
害虫駆除業者の男が、帰宅するなり、妻のお尻を撫で、毒針を探している。
その日、国じゅうのピアニストが集まって、玩具のピアノを鳴らしながら、独裁者のもとへ行進していった。
神様に送ったメールに生命を添付したので、コンピューターの動作が少し重い。
コンビニで猫の剥製を買ったら、頭の悪そうな店員に「温めますか?」と訊かれ、何のために剥製を買ったと思っているのだろうと腹が立った。
妻が作ったコンピューターウィルスは、感染したスマホ内の赤ん坊の写真を消去してしまう。
残業中、ちょっと息抜きしてくるわね、と言って先輩は、殺虫剤を持ってオフィスを出ていった。