超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

自販機

子どもの死体を背負った老婆が、天使の自販機の前で小銭を数えている。

地球滅亡の日の朝、靴下の穴に気づき、しばらくぼんやりしていた。

ねむい

額に「ねむい」と書いた紙を貼っているおじさんが、電車で眠っている。

飼育委員

小学校で飼育委員だった少年が、卒業の日、飼育小屋に火をつけた。

煙草

段ボールハウスの内壁に書かれた「禁煙」の文字の前で、ホームレスが木の枝を煙草大に折っている。

中年のスーツの男が、快晴の青空の下、公衆電話で誰かに「こっちも雨が降ってるよ」と言っている。

追跡

息子が死んだ時に発行された追跡番号で、息子の魂を追跡したら、あの世に行く前におもちゃ屋に寄っていた。

今年も誕生日に、油性ペン片手に墓地に行ったが、とうとう僕の身長は父の墓石を超えてしまった。

扇風機の葬式の日は、風が強かった。

交換

太陽を交換してくれた巨人が、指先を湖に浸して、そっと火傷を治している。

じゃんけん

異星から来た、指が千本ある転校生が、一緒に遊ぶ時、じゃんけんに混ざらない。

千羽鶴

ゴミ捨て場に転がっていた千羽鶴の数を数えていたホームレスが、新聞紙で追加の鶴を折り始めた。

ニンジン

ニンジンが食べられない男の子が、スーパーでニンジンを万引きして捕まった。

トマト

いつも八百屋の野菜に口紅のキスマークをつけて逃げていくその女は、トマトの赤さを憎んでいる。

タマネギ

理科の授業で涙を使う日、学校に母の遺影を持っていったが、それが急に恥ずかしくなってしまい、結局隣の席の子にタマネギを借りた。

数学者

数学者の妻が、「∞」の記号を載せたベビーカーを押して、保育園の扉を叩いた。

我々は彼らの教材用の星で生きているので、何度生まれ変わっても人生が楽しくて仕方ないようになっている。

ため息

もうずっと誰にも利用されていない自販機が、夜中、ため息とともに熱い缶コーヒーを吐き出す。

支払い

商品の購入時、愛情でも支払えるコンビニのレジの傍に、みすぼらしい子どもたちが寄せ集められている。

刑務所の塀の前で、タンポポの綿毛を吹いているあの少年は、どうやら塀の中に綿毛を届けたいようだ。

夕暮れの河原で、少年が一人、「おかあさん」と書いた石と、「おとうさん」と書いた石をぶつけ合って、どちらが割れるか試している。

長所

その少年は、お母さんが入院している病院の電話番号を覚えているところが自分の長所だ、と言っている。

近所のペットショップで売れ残っている猫に、どうしても将棋で勝てない。

履歴書の「前世」の欄に、正直に「ゴキブリ」と書いて、男は殺虫剤メーカーの面接に赴いた。

枯れ葉

秋の道に落ちている枯れ葉の一枚一枚に油性マジックで「踏まないで」と書こうとしている老人の手の中で、枯れ葉はバラバラに崩れていく。

消毒

月の消毒が終わるまで、夜空を見上げないでください。

リモコン

寂しいので、テレビを観ようと思ったが、テレビのリモコンは母の棺桶の中に入れてしまった。

金平糖

同じ病室の隣のベッドの、涙が金平糖になってしまう病気の女の子に、「甘い物が食べたい」と言ってみる。

けん玉

墓参りに行ったら、うちの子の墓前に供えたけん玉で、誰かが遊んだらしいことがわかる。

夕日の道を歩く双子の姉妹の影の間に、三人目の女の子の影がある。