トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

トモコからきいた話

保護者の皆様へ

小さい子の手が届く場所にハサミを放置しておいてはいけないとつくづく思い知った。 昨日の夜、夕飯の片づけをしていたら、3歳になる娘が工作用のハサミを持ってベランダに出ていった。 何か嫌な予感がして慌てて追いかけると、夜空に浮かぶ月がウサギさんの…

ハードボイルド

将来を誓い合ったミミズに別れを告げる間もなく、ジャガイモは畑から掘り出され、鍋に放り込まれた。 これでいいのさ。 どのみち俺じゃあ、あの子を幸せにはしてやれない。 鍋の外では、新婚の奥さんがエプロン姿のまま、帰宅した夫の首に抱きついている。 …

不合格

休日をほぼ丸々使って完成させた犬小屋だったが、愛犬は舌打ちとともに小屋を一瞥し、チェーンソーをくわえて近くの森の中へ消えていった。

掌編集・十七「震え、抵抗、魔女と線香花火」

【一.震え】 お母さんが夕飯の支度をしている台所から、包丁をまな板に叩きつける音とともに、短い悲鳴のようなものが聞こえてきた。 あれはやっぱり見間違いじゃなかったんだ。 スーパーから帰ってきたお母さんが手に提げていたビニール袋の中で、何かが手…

日焼け

海辺の町の小さな児童公園で、地元の子どもたちに混じって、真っ黒に日焼けしたミロのヴィーナスの両腕がトンボ捕りに興じている。 いやぁ、楽しそうで何よりだ。 * 両腕は突然この町に現れた。 漁船の網に引っかかったのか、のんびりと海流に乗ってここま…

掌編集・十六「やさしさ、窓と卵、雨と野良猫」

【一.やさしさ】 シャンプーを洗い流そうとシャワーの栓をひねったが、お湯が出ている音はするのに、お湯が頭に当たっている感じがしない。 そっと目を開けると、誰かが私の頭上で傘をさしていた。 【二.窓と卵】 昨日買った卵の一つに、小さな窓がついて…

掌編集・十五「象は賢い動物です、櫛、骨め」

【一.象は賢い動物です】 象は賢い動物です。 たとえばあの象を見てください。 長い鼻でペンチを器用に操って、壊れた飼育員を自分で修理していますね。 本当は飼育員がいなくても生きていけるのですが、飼育員の家族が泣いているのを見て修理することにし…

栓と鮫

年のせいなのか疲れのせいなのか、どうもどこかの栓がゆるくなっているらしい。 最近、しょっちゅう夢が外にはみ出す。 この間も、電車のつり革を握ったまま立ち寝してしまっていたところ、突然駅員に恐ろしい声でたたき起こされた。 びっくりして顔を上げる…

掌編集・十四「入れ食い、きっかけ、転校生と綿」

【一.入れ食い】 ご覧になりましたか、あの列車。 すっかり齧り尽くされていましたね。 あの山にトンネルを掘ったのがそもそもの間違いだったんですよ。 私のおばあちゃんが言ってましたもん。 アレはいつも腹を空かせているんだって。 【二.きっかけ】 呑…

パオパオ

休園日の動物園の象舎を点検しに行くと、象がパオパオ笑いながら踊り回っていた。 やめろと言っても聞こえていないようだったので、持っていた竹箒で頭を引っぱたいて無理矢理黙らせた。 後で他の飼育員に聞いたら、象の中の奴ら、休園日だからって朝から酒…

掌編集・十二:壁、十二時、クミコ

【一.壁】 日曜日の昼下がり、4歳になる息子が庭に出て、にこにこ笑いながら家の壁にホースで水をぶちまけていた。 いたずらしちゃダメでしょ、とホースを取り上げると、息子は困ったような顔をしてあっさり引き下がった。 次の日の朝、庭に出て洗濯物を干…

縁側でスイカを食べていた時、庭にプッと種を吐き出したら、地面に華麗に着地して、そのままスタスタと歩き去っていった。

いい雨

蛙が口笛を吹いている。 今日はいい雨が降っているらしい。

月と雨

昨日の夜は一晩中大雨が降っていたが、今朝は気持ちよくカラッと晴れた。 清々しい気分でテレビを点けると、ちょうど天気予報が流れていた。「今夜はキレイな満月が見られるでしょう」 その日の仕事帰り、家路を急ぎつつふと空を見上げると、なるほど確かに…

西日

窓から差し込む西日を何気なく指でつまんだら、案外あっさり剥がれてしまった。 窓の形に剥がれた西日をひらひらさせながら、何か良い使い道はないかとあれこれ考えてみたが、俺の頭では何も思いつかなかった。 一瞬、そういえばトイレットペーパーが切れか…

アラーム

母のアラームランプが点滅している。 思い切って「お袋」と呼んでみたのだが、どうやらまだ早かったようだ。

ある夜、交差点で信号待ちをしていたら、車のボンネットに何かが落ちてきた。 車を降りて拾い上げてみるとそれは流れ星で、表面に苔のようなカビのようなものが薄くびっしりとくっついている。 どうやら色々な人の願い事を背負いすぎ、その重みで落ちてきて…

暑中見舞い

昔の友人から突然暑中見舞いのハガキが届いた。 消印は「海の底」で、スタンプはタコの吸盤だった。 昔から住み家も仕事もふらふら定まらない風来坊だったが、額からちっちゃな提灯が生えた可愛い赤ん坊を抱いているこの写真を見る限り、ようやくあいつも落…

痕跡と目撃者

ホットケーキを焼き上げて皿に載せ、テーブルに置いたところで、ハチミツを切らしていることを思い出した。 何かかわりになる物ないかな、と冷蔵庫の中を覗いていた時、背中の方で何かがピカッと光った。 咄嗟に振り向いたが何もいない。 外の天気も台所の蛍…

増築

大人になって自分の家を持った。 金が貯まるたびに、家を上へ上へと増築していった。 夜空の星を少しでも近くで見てみたかったのだ。 ある時ふと気がついた。 星に近づくたびに、接着剤のにおいが強くなっていく。

刈り

近頃、月が欠けていくスピードが何だか速いなぁ、とは思っていたが、今日スーパーに買い物に行くと、「月」と書かれたラベルが貼られた缶詰が山積みになっていた。

ヌード

裏通りで何だか晴れ晴れとした様子のガイコツとすれ違った。 ガイコツのやってきた方へ歩いていくと、女の髪や皮や指輪が無造作に突っ込まれたゴミ箱を前に、コンビニのアルバイトが呆然としていた。

海と化石

最近、浴槽の水を取り替えようと蓋を開けると、すっかり冷めたお湯の中を魚の背びれがうろちょろしていることが時々ある。 このまま栓を抜いて排水管に詰まっても嫌なので浴槽の中をよく調べてみても、何もいない。 水族館で働く夫に訊いてみると、ちょっと…

星と塩素(改訂)

生徒が帰った後の夜のプールを片づけていたら、突然水面に何かがバシャンと落ちてきた。 おそるおそる近づいてみると、何だか丸くて、柔らかく光っている。 根拠はないが危ないものという感じはしなかった。拾い上げてみるとほんのり温かかった。 一体これは…

スタンド・バイ・ミー

俺がバイトするコンビニに深夜、オモチャのロボットが酒を買いに来た。 自分の背丈ほどもある缶ビールを抱えて出ていく足音が、カチャカチャと物悲しかった。 街はもう3月だ。 オモチャのロボットにも酔わなきゃやってられないような別れがあるのだろう。

月と夜空(改訂)

夜の屋台でかけ蕎麦を手繰っていたら、つゆに満月が映っているのに気が付いた。 月見そばか、と心の中で冗談を言いながらつゆをすすると、月が前歯にこつりとぶつかった。 思ったより腹の足しにはなったが、夜空は真っ暗になってしまった。

鈴と金魚

誰かが落とした鈴を飲み込んだ金魚が、縁日の屋台の桶の中をりんりんと泳ぎ回っている。 鈴の分だけ体が重いから、誰にもこの金魚をすくうことはできない。 祭の灯が消え縁日から人が去る頃、ほとんど空っぽになった桶を片付け、「しかたねえなお前は」と愚…

ラバーズ

さよなら、愛しているよ。 真っ二つに切られる直前、トマトは確かにそう叫んだ。 べとべとになった手を洗い、冷蔵庫を開けると、レタスときゅうりがほのかに赤く色づいていた。 野菜室の中で何があったか知らないが、今日の夕方こいつらを八百屋で買ったとき…

猫と列車

満員電車に揺られていたら、どこかから猫の鳴き声が聞こえてきた。 乗客がざわざわしながら辺りを見回しているが、どうも私の足元に声の主がいるらしい。 そっと下を見てみると、子猫が2匹、不安そうに私を見上げていた。 白と灰色のまざった子猫が2匹、右の…

へそと手紙

弟か妹のつもりで接していた屋根裏のネズミがある日、俺の部屋にお別れを言いに来た。いつものぼさぼさの毛皮ではなく、小さな宇宙服を着て、小さなヘルメットを小脇に抱えていた。 天井を指さすので、天井の板を外し屋根裏を覗くと、小さな通信機の光のチカ…