トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

一瞬

魚屋の店先。やけに大きな蛸が一匹。よく見てみると、八本の脚のそれぞれに、ピアノの鍵盤に貼るドレミ……の丸いシールが貼られていた。何だ何だ、何なんだこれは。私があまりにもしげしげ眺めていたせいだろう、いつの間にか魚屋のおかみさんが傍にいて、「…

夢かと

窓枠にカエルが一匹、ざあざあ降っている雨を見上げながら、しきりに自分のほっぺたをつねっていた。カエルが夢かと疑うほどいい雨なのか、この雨は。カエルは喜び勇んだ様子で、窓枠を飛び出し、雨を浴びながらどこかへ消えていった。私は雨で乾かない洗濯…

果物屋

影が夕日を吸って柔らかくなっていたので、林檎の形にこねてみた。何となくだ。理由はない。家に帰ると、妻に笑われた。その晩、林檎になった夢を見た。果物屋の店先に他の林檎とともに並べられ、買い物に来た奥さんたちのスカートを覗いていた。赤面しても…

目の上

行き先のところに「目の上」と表示されたバスが向こうからやってきた。この辺りに「目の上」なんて地名があったっけ。不思議に思いつつバスの中を見てみると、座席にはありとあらゆる眉毛が乗っていた。細い眉毛、太い眉毛、柔らかそうな眉毛、硬そうな眉毛…

シール

歩道で自転車にひかれそうになっていたカマキリを助けた翌日から、我が家の周りを飛び回るチョウチョの羽根に、「今が旬」とか「オススメです!」というシールが貼られるようになった。カマキリなりの恩返しらしい。あのギザギザした腕でよくシールを貼れる…

小学生だった頃、ある日近所の公園に行くと、公園の木々一本一本にケーブルでマウスが繋がれているのを見つけ、適当にクリックしまくっていたら、夏でもないのにそこら中から蝉の声がじゅわじゅわ響き始め、どこからかすっ飛んできた公園管理人らしき爺さん…

塗り

ふと青空を見上げると、小さな雲が一つ浮かんでいた。じっと見つめていたが、ちっとも動かない。ああ、あれ、雲じゃないや。塗り忘れだ。世界の端っこに住んでいるから、たまにこういうことがある。毎日青空を塗らなきゃいけない方も大変だと思う。

ジャラジャラ

公園の樹の傍に引っ越し屋のトラックが停まっていた。こんな場所におかしいな、と思いつつ何気なく樹を見ると、リスの家族がいたうろが空っぽになっていた。その後、トラックが発進する時に荷台からジャラジャラという音が聞こえた。きっとドングリだろうな…

かわき

同僚の××さんは、雨の朝は遅刻ぎりぎりでやってくるし、雨が降り出すと早く帰りたがる。スーツのスカートから、ときどき魚の尾びれが飛び出していることと、何か関係がありそうだ。が、そこまで仲良くないので真相はきけていない。ううむ。

百円分

動物園にライオンを見に行ったが、たてがみのあるライオンが一頭もいない。通りかかった飼育員に訊くと、「百円になります」と言われた。何のこっちゃと思いつつ百円玉を手渡すと、飼育員はライオンの檻の中へ入り、端でごろごろしていた一頭のメスライオン…

にょうぼとお日様

今日は風が吹くたび、太陽がやけにぶらぶら揺れるので、よく目をこらすと、太陽のてっぺんに、りんごみたいなヘタがのびていて、それが風でちぎれそうになっていた。とっさに両手を器の形にして、いつ太陽が落ちてきてもいいようにと待ち構えていたが、その…

紙吹雪

仕事の帰り道、ふと見上げた満月に、くす玉の紐が垂れ下がっていた。手を伸ばして掴もうとしたが、掴めなかった。ということは、あれは私のものではないらしい。 家に帰り、カップラーメンの3分を待っている時、空からカタン、と音がした。窓の外を見てみる…

持つところ

昔、近所に住んでいたお姉さんが弾くピアノの音には、「持つところ」がついていた。お姉さんの家によく遊びに行っていたぼくたち兄妹は、「持つところ」に指を引っかけてピアノの音をつかまえては、帽子のつばにぶら下げてみたり、指で弾いてその音色を楽し…

くしゃくしゃ

洗濯機から洗濯物を取り出すと、何だか全部ほんのりピンク色に染まっている。色物なんてなかったはずなのに、おかしいなと思い調べてみると、シャツの胸ポケットから、くしゃくしゃになった恋心が出てきた。このシャツを着ていたのは先週の金曜日。ああ、そ…

最新型

転校生の××君が、授業中にくしゃみをした。次の瞬間、口と鼻から黒い煙を出して、××君、そのまま動かなくなってしまった。都会からの転校生だからきっと最新型で整備もきちんとされているだろうと先入観で勝手に決めつけていたが、そうでもないらしい。

力こぶ

朝、テレビの映りが悪い。おまけに、廊下の電気がちかちかしている。またか。ベランダの窓を開ける。我が家の目の前に立っている電信柱、こいつが原因だ。この電信柱が、登校途中の女子高生たちに、最近できた力こぶを自慢するために、くの字に折れ曲がった…

石の城

夜中、喉が渇いたので台所に行くと、暗い天井の近くに、バナナが一本浮いていた。熟すのを待とうと放っておいたバナナが、三日月の真似をしているのだった。ひざまずいて祈る真似をしてみた。バナナが頭上で照れるのがわかった。水を飲み台所を去る時、振り…

黒鍵

朝起きたら、わき腹にピアノの黒鍵がくっついていた。子どもたちの笑顔に囲まれるすごく幸せな夢を見ていたのは覚えているが、意外なキャスティングで登場していたようだ。わき腹の黒鍵を押すと、ぷりん、と変な音がした。ダイエットをしろということなのだ…

ヒマワリ

スマホの待受画面をゴッホのヒマワリに設定した。誰に見せるわけでもないけど、何かかっこつけたかったのだ。しかし、その日から、外を出歩くたびに、数本のヒマワリに後を尾けられるようになってしまった。この辺に、ヒマワリが咲いている場所なんてないの…

溜まる

朝起きると、天井に、ゆうべの夢に出てきた美女たちがふわふわ浮かんでいた。あまりに嬉しい夢だったせいだろう、消えずに溜まってしまったらしい。人通りを確かめて、そっと窓を開ける。窓から夢の美女たちが逃げていく。誰にも見られてないだろうな、と一…

たて

公園を散歩していると、とあるベンチに、「かみさま すわりたて」の貼り紙が貼られていた。「ペンキ ぬりたて」は見たことあるが、こいつは珍しい。座ったらどうなるんだろうと思い腰を下ろしてみると、次の瞬間ベンチが炎に包まれ、思いっきり尻を火傷した…

夕焼けの歌

あれは小学生の頃、夕日を見ながらの帰り道、その日の夕日はとてもきれいだったけれどなぜかなかなか沈まなくて、空の下の方にじっととどまっているままだった。ぼくは首をかしげつつ空き缶を蹴っていた。すると川辺の道に何か落ちているのを見つけた。それ…

酔い

テーブルの上にうっかり酒をこぼした。愛用しているペンが酒びたしになり、ペンはすっかり酔っぱらってしまった。ふらふらとテーブルの上を這い回り、メモ帳を見つけると、「俺の前世は船乗りだったんだ」と筆談で伝えてきた。なるほど、それで、「海」とい…

婆さんと蜘蛛

古本屋の店番をしているよぼよぼの婆さんと、その店の隅にでっかい巣を張っている蜘蛛は、ときどきその立場を入れ替えている。たまに店を覗くと、蜘蛛が店番をして、蜘蛛の巣の真ん中で婆さんが茶をすすっていることがある。なんでも、お互いに死ぬことを忘…

帰り道の途中にある墓地にいつも出る幽霊の顔が怖いので、試しに墓石をくすぐったら次の日から半笑いになった。半笑いか。もしや呆れられているのだろうか。

バターナイフ

母の墓参りに行ったら、墓石の背丈が少し縮んでいるような気がした。変だなと思いよく調べてみると、墓石の傍らに灰色がかったバターナイフが一本落ちていた。ははん。最近急に肥った住職が怪しいぞ。

おろし金

家を出ると霧雨が降っていた。何となくやさしい霧雨だった。しかし遠くの方では強い雨が降っていた。首をかしげつつ空を見上げると、死んだばあちゃんが雨雲をおろし金ですっていた。おろし金でするくらいなら雨そのものを止めることができるような気もする…

キャベツ売り場から

昨日、スーパーで買い物していたら、キャベツ売り場からしゃれこうべが飛び出してきて、カタカタ笑いながらすごいスピードで去っていった。驚いていると、そこへ困った顔の中年店員が現れ、しゃれこうべを軽く追いかけていったが、とうてい追いつけるスピー…

トントン

アイディアに煮詰まって、持っていたペンのお尻で額を二度、ノックした。トントン。すると額の内側から二度、ノックが返ってきた。トントン。「入ってますよ」そんな声が頭の中に響く。入ってなきゃ困りますよ。

ベッドにいるのはわたしひとりだが、ふとんからはみだしている足は五本も六本もある。足をうごかしてみるとぜんぶ同時にうごくから、どれがわたしの足なのかわからないが、どの足もつやつやの爪が生えていたり、たくましい血管がうきでたりしているので、ど…