トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

霧雨

近所のコンビニの傘立てにずーっと置きっぱなしにされていた青と赤の二本の傘、の間に、今日、ちっちゃな傘が横たわっていた、子傘が生まれてしまったらしい、買い物ついでに、レジ打ちをしていた店長に話を聞くと、「いやあ、もう、しょうがないからうちで…

洋梨

今夜の満月はなんだかプルプルしていておいしそうだ、と思った矢先、大きなスプーンが現れて、満月の端っこをちょっとすくって消えていった、ああ、そういえば、今夜から月の満ち欠けのやり方が変わります、ってテレビのニュースでやってたっけ、スプーンで…

ある日の真夜中、「細部まで精巧に再現しました」と博物館が胸を張る城下町のジオラマの周りを、殿様の幽霊がぐるぐる歩き回っているのを見た、唇をとがらせて、城の窓の数を数えていた、ああ、いいなあ、これぞ監視カメラ冥利に尽きる光景だ。

テイクフリー

「あらら、雪だるまの顔だけ先に溶けちゃったんだね」「ううん、さっき、首のないお姉さんが来て、持っていっちゃったの」

毛糸玉

夜空に浮かぶ毛糸玉、月のかわりの毛糸玉、ある夜地球と喧嘩して、ぷいと家出してしまった月のかわりに、夜空に浮かべられることになった毛糸玉、ちょっと黄色い毛糸玉、はじめのうちは居心地悪そうだったけど、最近ではすっかり月の顔になってきた毛糸玉、…

家賃

誕生日に、砂浜できれいな巻貝の貝殻を拾った、自分へのプレゼントとして家に持ち帰った、が、使い道がなかった、結局十五分で元の場所に帰ってきた、砂浜に投げ戻そうとした時、ふと、この貝殻に、ヤドカリが住みついてくれないかな、と思いたち、ヤドカリ…

アート

美術館へ行ったら、ある額縁の前に、くしゃくしゃに丸められた紙がころんと転がっていた、現代アートなのかな、と思ったが、次の日、テレビのニュースを見てびっくりした、自殺だったそうだ。

しおりひも

いい本だった……とおもわずつぶやくと、本のしおりひもがまるで犬のしっぽみたいにじゃれてきた、いなかの図書館のよく陽のあたる席でのことだ、背表紙をなでてやるとペラペラと心地よい音をたててページがめくれた、借りて帰ろうと思ったが、よく見ると「貸…

まりも

ある時から月は欠けるのをやめ、周りの星々を取り込みながら、まりものように膨らんでいき、やがて夜空一杯の大きさになった頃、ふいに地球にぷいと背を向けどこか遠くへ行ってしまった、まるまる肥えた月の傍らには風呂敷包みが一つあり、その中には地球で…

濡れたハンカチで口をおさえ、早歩きで通りを行く女、真っ赤な顔の女、のやってきた方には真っ赤な夕日、にはよく見れば口づけの跡、夕日の熱ですっかり焦げ跡になってしまっているが、それは確かに女の唇の跡、いくつもいくつも残されている、そしていつも…

ハミング

お風呂場の外壁のすぐそばにあるもぐらの穴からハミングが聞こえてきた、中でもぐらが歌っているらしい、珍しいこともあるものだ、と二十分くらい聴いていたが、全部心当たりのある歌だった、どころか私の好きな歌ばかりだった、ああ、そうか、私が毎晩お風…

ペラッ

しとしとと雨が降り続ける午後、静かな部屋に、本のページをめくる音だけが、やけに大きく響いている、ペラッ……ペラッ……ペラッ、それ自体は何でもない音だが、問題は、それが身重の女房の腹の中から聞こえるということだ、俺は訊く、「……病院の先生は何て?…

リスその他に

少し嫌なことがあり、うつむきかげんで公園の並木道を歩いていたら、地面を埋め尽くす落ち葉の中に、虫食いの穴の形と大きさが全く同じものが何枚も混じっていることに気づいた、ので不思議に思いつつ拾って集めていると、十枚集まったところで、何か大きな…

やる気

端から端へファスナーのついた大きな雲が、肘をつき片膝を立てて寝転がるおじさんの形で、ゆっくり空を流れていく、微動だにせず、やる気なく、流れていく、流れていった、風に流されて、いってしまった、退屈な田舎町の空だからと思って油断していたのかも…

晩酌

晩酌の肴にかじっていたスルメイカが、口の中の歯車に挟まった。鉄の指を口の中に突っ込んで、問題の歯車を探る。ああ、あった、これだ。歯車からイカを引っこ抜き、ほっと一息ついて、酒を流し込んだところで、ふと思い出す。確か二、三百年前にも、似たよ…

叱られて

夜、俺たちが寝ている間に、地球の裏側で、何かやらかしたらしい。朝起きて、何だかいつもより眩しいな、と思ったら、太陽がたんこぶをいくつもこしらえていた。

どしたの

夜、眠りかけた頃、居間の方からオルゴールの音が聞こえてきた。ベッドから出て居間をそっと覗くと、もう眠ったと思っていた飼い犬がまだ起きていて、オルゴールにじっと聴き入っていた。よくあるクラシックの曲だが、捨て犬だったのを拾ってきた犬だから、…

標本箱

宇宙船の外に出て、ひとり船外活動をしていたら、遠くから、なにかきらきらしたものが漂ってきた。目をこらすと、それは見たこともない蝶がおさめられた標本箱だった。標本箱が飛んできたのは、確かこの間、小さな星が爆発していると言われている方角だ。そ…

湯豆腐

最近気づいたことだが、俺がくしゃみをするたび、向かいの家が一瞬停電する。原因もさっぱりわからないし、向かいの家とも特に面識があるわけではないが、何だか悪いことをしている気がして、その日からなるべくあたたかい格好で寝ることにしている。湯豆腐…

白いおじさん

「××くん おたんじょうび おめでとう」 と書かれたチョコレートの板を、おでこにくっつけた白いおじさんが、肩を落として、とぼとぼ夜道を歩いていた。すれちがうとき、とても甘い匂いがした。「××くんには、会えたんですか?」 背後からそう声をかけると、…

ラストシーン

その朝、東の空から現れたのは、太陽ではなく、エンドロールだった。 ということは、ゆうべの冴えない晩酌が、俺のラストシーンだったのか。どうせなら大盤振る舞いしとくんだった。 それでは皆さん、ご縁があれば、また次回作で。

世界平和

夜空を眺めていたら、流れ星を見つけた。せっかくだから何かお祈りしようとした瞬間、流れ星がパッと消えてしまった。よく目をこらすと、夜空を誰かが歩いていて、そいつが着ているパーカーのフードに、流れ星が入ってしまったらしい。何だかすごくテンショ…

熱燗

冬の夜だ。かくべつに寒い冬の夜だ。熱燗を一本つける。軽く足踏みをして寒さを紛らす。息が白い。ふと窓の外の夜空を見上げる。満月が出ている。が、なんだかやけにもこもこしている。目をこらすと、月はまん丸のセーターとニット帽を着込んで、俺と同じよ…

目薬

昔、美術館でアルバイトしていた時、閉館後、展示室の掃除や見回りをしていると、額縁の中から「目薬持ってきて」と頼まれることが多かった。何しろ一日に何十何百もの来場者の顔を眺めなければいけないので、ずいぶん目が疲れるのだそうだ。その中でも特に…

はんぶん

うしろはんぶん色をぬり忘れられたネコが 透明なうしろはんぶんを 木漏れ日の中にひたしている 木漏れ日の色に染めたくて 夕方になれば うしろはんぶん色をぬり忘れられたネコは 透明なうしろはんぶんを おしげもなく夕日にさらす 夕日の色に染めたくて まえ…

歯ブラシ

歯ブラシを口にくわえようとして、ずいぶんぼろぼろなことに気づいたが、すぐに捨ててしまうのももったいない気がした。何か磨くものでもないかと家の中をうろうろしていた時、ふと、窓の外の満月が目に入ったので、窓を開け、月を磨き、ウサギの餅つきに見…

テクニック

むかし時計屋さんがあった空き地に、野生の砂時計が生えていた。まだ形もいびつで、砂も詰まりすぎているが、珍しいので一つ摘んで家で育てることにした。二ヶ月くらい経ち、立派な砂時計に生長した。が、時間を計ってみたら3分12秒という半端な数字だったの…

UFO

ある日の夕方、ドーナツ屋の窓から、青色と赤色のドーナツが次々に飛び出してきて、まるでUFOの大群の一斉攻撃のように、町のあちこちへと飛び去っていった。あるものは干されていた布団に突っ込んで布団をべたべたにし、またあるものは放課後の教室に飛び込…

ぴかぴかの鎖をなびかせて、犬が通りを駆けてゆく、夕日に向かってまっすぐに。今日こそはあの眩しい野郎にかみついてやろうと、意気込んでいる。のだ。わん。

同じレンジ

新しいゲームを買ってもらったので、休日の朝から、近所の××君の家に行った。インターフォンを鳴らすと、××君のお母さんが出てきた。「××君お願いします」「すぐに用意するから待っててね」通された居間でジュースを飲んでいると、電子レンジのあたため終了…