トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

特典(改稿)

仕事が忙しくて、火葬場から来ていたハガキに気づかなかった。ハガキには「ご当選おめでとうございます」の言葉とともに、QRコードが印刷されていた。 私は画面がひびわれたままの携帯電話でQRコードを読み取った。すぐに画面が切り替わり、 焼却中・・・ と…

羽根

近所の家の前を通りかかったところ、塀にトンボがとまっていて、家の方を見ながら首をぐるぐる動かしていた。すぐ傍の窓の向こうで誰かが指でも回しているのかと思い、つま先立ちになってちょっと中を覗くと、お札みたいなものがベタベタ貼られた部屋の中で…

日記(頭痛)

××月×日 彼女に別れ話を切り出したら、「最後に一晩だけ一緒にいてくれ」と言われた。言われた通り彼女の部屋で特に何もせず一晩一緒に過ごし、翌朝目覚めて自宅へ帰る途中、彼女との思い出を頭に浮かべようとした瞬間、これまでに経験したことのないくらい…

日曜

「申請者」の欄に「心臓」と書かれた外出届に判を捺した格好のまま、おじいちゃんが朝から微動だにしない。

父と子

病院のベッドで眠る身重の妻の傍でうたた寝をしていたら、突然、「じゃーんけーん!」という子どもの声が病室に響いた。 反射的にチョキを出して、それから辺りを見回すと、妻がお腹をおさえながらうなされていた。 慌てて布団をめくると、妻のお腹の真ん中…

ハリウッド

夜中、眩しい光で目が覚めた。一人暮らしの部屋の天井に、テレビの光がちらついている。 不審者かもしれない。音を立てないように身を起こし、テレビのある方へ目をこらすと、窓際に置かれているはずの鉢植えのサボテンがテレビの前で、西部劇の荒野をじっと…

この前、学生時代の友人に、街で偶然再会した。 色とりどりのペンキで汚れた軽トラの荷台に腰かけ、空を眺めて缶コーヒーを飲んでいた。 学校を出てからずっとふらふらしていた奴だが、ようやく仕事を見つけたらしい。「今何してるんだ?」と尋ねると彼は、…

ベランダにて

帰り道、ふと見上げると、夜空に伸びる長いハシゴを、デッキブラシを抱えたおじさんがゆっくり登っていくのが見えた。 この辺りの星も掃除されることになったらしい。 家に帰り、まっさらになっていく夜空を眺めながら、ベランダでちびちびとビールを飲んだ。…

ため息

小便器の前に立った瞬間、ズボンのファスナーが内側から開いた。

猫が出る

飼い猫を撫でる夢を見た。 やけにリアルな夢だった。 目覚めると左耳が温かい。 耳の穴から飼い猫のしっぽが飛び出していた。

それから

娘が、絵本を前に泣きじゃくっていた。「こうして、ふたりはいつまでもしあわせにくらしました。」 そう読み上げた瞬間、お姫様の首筋に鳥肌が立ったのだそうだ。

帰郷

今朝、軒下にある蜘蛛の巣に、図鑑でしか見たことのないような美しい、大きな蝶が引っかかっていた。 こんな蝶が近所にいるのかと不思議に思いながら家を出ると、いかにもよそゆきといった洋服に身を包み、たくさんの標本箱を抱えた巨大な蜘蛛が、お隣の家に…

相槌

うんうん。 そうなの。 あらあら。 なるほどねえ。 私の胸に聴診器を当てたまま、医者が何かに相槌を打ちはじめた。 これからどうするの。 そうだよねえ。 いや、君は悪くないよ。 はい。 さよなら。

おしゃれ泥棒

夜空を見ていたら、突然巨大な耳たぶが現れ、三日月をぶら下げて消えてしまった。 テレビを点けると、地球の裏側では、やはり巨大な耳たぶとともに、太陽が消えてしまったらしい。 地球中に漂うきつい香水の匂いを嗅ぎながら、今日も私たちは空っぽの空を見…

僕の先生は

「弟が欲しい」と先生に相談すると、次の日、先生は新しいお父さんとお母さんを買ってきてくれて、組み立てまで手伝ってくれることになった。 しかし、お母さんを組み立てた後、先生は「一人で進めていてくれるかな」と言い残し、組み立てたばかりのお母さん…

おつかれ

ベランダで夕焼けの光を浴びながら物思いにふけっていると、夕日が沈みきると同時に、向かいのアパートの一室からオレンジ色の人が出てきて、とぼとぼと夜の闇の中へ消えていった。

予兆

今朝、砂浜に無数の魚が打ち上げられているのが見つかった。 急いで海底を調べてみると、全ての魚の電源が切られていた。 海に異変が起きているらしい。

牛と雷鳴

「ラストオーダーになりまーす」 という店員の声が焼肉店に響くと同時に、店の裏手から雷鳴のような牛の吠え声が聞こえてきた。

カーテン

授業中、××君が、「保健室に行く」と言って教室を出ていった。 しかし、放課後になっても××君は戻ってこなかった。 部活に行くために外に出たら、校庭の隅に人だかりが出来ていた。 見ると、××君が土を食べていた。 次の日も、××君はまだ土を食べていた。 結…

アフター

治療ではなく実験だと気づいた時には、私は既に巨大なアスパラガスになっていた。

目覚め

朝、ゴミ捨て場の前を通りかかると、一匹の野良犬が、捨てられた雑誌をむさぼり食っていた。 宇宙の謎を特集した子ども向けの科学雑誌だった。 夜、公園の前を通りかかると、ジャングルジムのてっぺんに今朝の野良犬がいて、じっと夜空を見つめていた。 そっ…

新しいシャツ

朝目覚めたら胸の間に目玉があった。金星みたいに綺麗な目玉だった。 外の景色を見せてあげると喜ぶので、家にあるすべてのシャツに穴を開けてしまった。 出かけるのが楽しくなった。 でも、たまに生意気な目つきで私を見ることがあるので、そういう時はわざ…

カチッ

ある朝、起き抜けにくしゃみをしたら、鼻の穴から換気扇の紐が出てきた。 痛くも痒くもなかったけど一応病院に行ったら、レントゲンのすごいやつみたいな機械で検査されて、「多分心臓に繋がってます」と言われた。「引っ張ったらどうなります?」「さあ」 …

20円

かじかむ指先で自販機に小銭を入れ、缶コーヒーのボタンを押す。ガコン、とこもった音が聞こえて、取り出し口に手を伸ばす。 取り出し口の両端からは、透明のカバーを押しのけて、誰かの足首から先がはみ出している。その足首と足首のちょうど真ん中に落ちた…

琥珀の子

部屋に差し込む夕日を浴びてうたた寝をしていた娘が、夕飯の時間になっても部屋から出てこない。仕方なく呼びに行くと、娘は眠ったまま巨大な琥珀の中に閉じ込められていた。娘を包んでいた夕日の光が夜の冷気で固まって、そのまま琥珀になったらしい。 夫や…

独り言

ドラム缶にゴミを入れて燃やしている時、ぶつぶつと独り言をつぶやいていることに気がついた。はっとして立ち上がり、その場に自分しかいないことを確かめ、ため息をつく。 元々独り言が多い方だったけど、これは相当重傷だな。 そんなことを考えながら、ま…

等価交換

今夜も、「月」と書かれた食券が、夜空をゆっくり横切っていく。

アルバイトをしている喫茶店に、朝から妙な4人組が来て、コーヒー1杯で夜まで居座り続けていた。 コーヒーを飲んだり煙草を吸ったりする時以外はずっと額を付き合わせて、何かを話し合っているのだが、その結論がなかなか出ないらしい。 とうとう閉店の時間…

夜風

涙が染み込んで、すっかりふやけてしまった古い顔を、爪の先で少しずつ剥がしながら夜道を歩く。 道に落ちた古い顔が靴の裏にくっついて、にちゃにちゃと嫌な音を立てている。 どうして失恋なんかで泣いてしまったんだろう。 ……。 古い顔を全部洗い流す。爪…

生もの

「生ものの荷物が届くから受け取っておいて」 と言い残し、母は出かけていった。 夕方頃、大きな段ボール箱が届いた。生ものって言ってたな、と思い蓋を開けると、背中にマスタードとケチャップをかけられたおじさんがうずくまっていた。 とりあえず冷蔵庫の…