トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

どこかできいた話

ファミリーレストラン

向かいの家の家族は、雨が降ると一家揃って傘もささずに外出し、雨が止む頃、ぶよぶよに肥って帰ってくる。

今日もまた、名前を呼ばれた愛犬が、壁の中にいる誰かに確認をとってから、私のもとに駆け寄ってくる。

猫のゆりかご

散歩中に通りかかった林道の外れから、小学生の集団がわいわい騒ぎながら現れた。 それぞれが手に給食の余りらしきパンや牛乳を持っていたので、捨て猫でもいるのかと思い、林道の奥へ行ってみると、案の定落ち葉の上に段ボール箱が置かれていた。 近づいて…

ママはご機嫌

クラスメートに笑われないようにと、お母さんは今日の遠足のお弁当にお肉をたくさん入れてくれた。 甘辛い味付けのそのお肉はとても美味しかった。 家に帰り、お母さんにありがとうと言いながら抱きつこうとしたけど、もうお母さんには抱きつけるところがな…

ダイアリー

水槽の底の死んだ蟹を一日見つめていた。 夜の11時頃、蟹の口からちいさなあぶくが一つ浮かび上がった。 よかった。 日記に書くことができた。

身代わり

役所の用意した祭壇に、年老いた母子連れが手をつないで近づいていく。 今日はあの二人か。 でも、一日一人だけって決まりだったはず。 どっちなんだろう。 ……あ、昼休みの鐘だ。 母親ならラーメン屋、せがれの方なら牛丼屋だな。

ネイチャー

子犬の足跡みたいな雲が、秋空に点々と浮かんでいた。 雲の行き先を追いかけていくと、空の上で大きな子犬が飛行機を食っていた。

お母さんの種

お母さんの種を庭に埋めたが、近所の子どもにいたずらされてしまったせいで、結局エプロンしか採れなかった。

毒とピアノ

ピアノがうっすら埃をかぶっていたので、海に毒を流すことにした。 この前私の指を噛みちぎって逃げた人食い魚の腹の中から、早く私の指を見つけて元通りくっつけないと、ピアノがかわいそうだ。

傷痕

彼が眠っている間に、胸のキスマークを削ぎ落とさなきゃ。

髪と陽

もう死んでやる、といつもの調子でつぶやいて彼女はビルの階段をのぼっていった。 うだるような暑さの中、僕は心身ともに疲れ果て、彼女を追いかける気力もなく、ただぼんやりと足元の影を見つめていた。 どのくらいの時間が経っただろうか、蝉の声がふいに…

液体

突然降り出した雨に思わず空を見上げると、雨雲に出刃包丁が突き刺さっていた。

煮込む

レシピには弱火で煮込むと書かれていたが、鍋の中からくしゃみが聞こえてきたので、思い切り強火にすることにした。

迫真

死体役として舞台に倒れている俺に、天井からぶら下がった人々が惜しみない拍手を送っている。

乾燥

やっとのことで回り始めた乾燥機の中から、チャリチャリという音が聞こえてくる。 ああ、そうか。 付け爪が外れてしまったんだ。

カボチャ

ゆでた掌をザルに上げた瞬間、風呂上がりを連想してビールを飲みたくなった。 何でだろう。お酒なんて一滴も飲めないのに。 一度だけ飲んだことはあるんだけど、気持ち悪くなるばかりでちっとも酔えなかったから、それ以来お酒は飲んでいない。 もちろんビー…

レシピ

この魚は死んだ後も涙を流し続けるので、塩は少なめにしましょう。

先生のお話

夏休みだからといってだらしない生活をしてはいけませんよ。 神様に捧げられる人以外は夜更かしはやめましょうね。 ではまた休み明けに!

急ぎ足

(夜中の2時頃。とある交差点。信号が赤に変わり、そこへ一台の車がやってきて止まる。)(運転手がぼんやり信号を待っているところへ、目の前の歩行者用信号が青に変わり、女の生首がゆっくりと横断歩道を渡っていく。) ……あいつ、ここのところ毎晩見るな…

掌編集・十七「震え、抵抗、魔女と線香花火」

【一.震え】 お母さんが夕飯の支度をしている台所から、包丁をまな板に叩きつける音とともに、短い悲鳴のようなものが聞こえてきた。 あれはやっぱり見間違いじゃなかったんだ。 スーパーから帰ってきたお母さんが手に提げていたビニール袋の中で、何かが手…

掌編集・十六「やさしさ、窓と卵、雨と野良猫」

【一.やさしさ】 シャンプーを洗い流そうとシャワーの栓をひねったが、お湯が出ている音はするのに、お湯が頭に当たっている感じがしない。 そっと目を開けると、誰かが私の頭上で傘をさしていた。 【二.窓と卵】 昨日買った卵の一つに、小さな窓がついて…

掌編集・十五「象は賢い動物です、櫛、骨め」

【一.象は賢い動物です】 象は賢い動物です。 たとえばあの象を見てください。 長い鼻でペンチを器用に操って、壊れた飼育員を自分で修理していますね。 本当は飼育員がいなくても生きていけるのですが、飼育員の家族が泣いているのを見て修理することにし…

掌編集・十四「入れ食い、きっかけ、転校生と綿」

【一.入れ食い】 ご覧になりましたか、あの列車。 すっかり齧り尽くされていましたね。 あの山にトンネルを掘ったのがそもそもの間違いだったんですよ。 私のおばあちゃんが言ってましたもん。 アレはいつも腹を空かせているんだって。 【二.きっかけ】 呑…

鍋とぷにぷに

昨日のカレーの残りを朝ごはんに食べようと鍋の蓋を開けると、何か真ん中に深いくぼみのある、白くてぷにぷにしたパンのような物が鍋にぎっちり詰まっていた。 それがヘソと腹だと気づくまでにしばらく時間がかかった。

掌編集・十三「煙突、口が痛い、虎と下着」

【一.煙突】 友達と遊んだ帰り道、ふと何か嫌な気配を感じて後ろを振り返ると、近所の工場の煙突に大きな喉仏がくっついていて、夕焼け空を飛ぶ鳥の群れをごくごくと飲み込んでいた。 【二.口が痛い】 口の中が痛くて目が覚めた。 どうも口内炎や虫歯とい…

掌編集・十二:壁、十二時、クミコ

【一.壁】 日曜日の昼下がり、4歳になる息子が庭に出て、にこにこ笑いながら家の壁にホースで水をぶちまけていた。 いたずらしちゃダメでしょ、とホースを取り上げると、息子は困ったような顔をしてあっさり引き下がった。 次の日の朝、庭に出て洗濯物を干…

冷たい風船

冷蔵庫の扉を開けた瞬間、飛び出てきた風船に鼻の頭を小突かれた。 昨日買ってきた手首がどうしても離そうとしなかったので、仕方なくそのまま入れたのだった。 邪魔くさいなぁとは思うが、この風船が萎みきってしまう頃には手首も使い物にならなくなってい…

夜のト書き

最初のまばたきの間に部屋の蛍光灯が切れ、 次のまばたきの間にドアが開き、 さいごのまばたきを終えた瞬間、後ろから何かに肩を叩かれる。

めし

めしめし、と鳴く猫を背に、女が台所に立ち尽くしている。 何気なく手をかけた冷蔵庫の中から、人の気配がするのだ。 いつもの肉屋に寄ればよかったのに。

雲と歯型

墓の上の空に浮かぶ大きな雲が、細かい歯型とともに小さくなっていく。 墓の下で眠る娘がまたお腹をすかせているらしい。