トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

昨日

脳天につまようじを刺した試食用の俺たちが、体育座りでスーパーの床に並んでいる。大声を張り上げる試食担当のおばさん。虚空を見つめる試食用の俺たち。おばさんの頑張りもむなしく、誰も試食用の俺たちを試食してくれない。一瞥するだけで通り過ぎていっ…

庭で遊んでいた息子がとつぜん空を指さして「へびー」と言った。見上げると、なるほど確かに蛇の形に見える雲が浮かんでいる。にょろんとした体はもちろん、先端に頭に見える部分もあって、さらにそこからちょろりと舌に見える小さな雲も飛び出している。確…

ここどこ

ここどこここどこねえここどこ。誰だそんなことを言っているやつは。一人暮らしの俺の部屋のどこかでそんなことを言っているやつは誰だ。ここどこここどこねえここどこなのよ。俺はじっと耳を澄ます。声の出所がだんだんわかってくる。ここどこここどこねえ…

相乗り

前を走っていた車のマフラーから、何か黒い綱のようなものが飛び出していた。よく見るとそれは三つ編みの髪の毛だった。さっきまで、あんなものなかったはずだけどな。おや、おでこが現れた、と思ったら、眉、目、鼻、口、首、肩、胸、おなか、太もも、と次…

縁の下

縁の下から、尻尾のちぎれたトカゲが大慌てで走り出てきた。

SF

親戚の子をだっこしたら、素手でメガネを触られた。指紋を拭き取ろうとした時、その子の指紋に、製造番号が入っていることに気づいた。なんか、SFみたいだなぁ、と思った。

火葬を終えた妻の骨には、お面用の穴と焼け焦げたゴム紐が残されていた。あれ。さいごの顔、どんなんだったっけ。

メロン

廃墟になっている病院に肝試しに行ったら、天井を逆さまに歩いていた看護婦さんに捕まって、緑色の液体が入った注射を打たれた。気がつくとぼくはメロンになっていて、ある病室のベッド横に置かれた果物かごの中に放り込まれていた。今はかごの中でじっとし…

ちょうちょ

学校の花壇の花の周りを、何かころっとしたものが飛び回っていた。よく見るとそれは固結びにされたちょうちょだった。ので、きちんとちょうちょ結びに戻してやると、ちょうちょはほっとしたように花の蜜を吸っていた。どこかの悪ガキの仕業だろう。今度の全…

理科準備室を掃除していると、一番奥の棚の隅に、不思議な色の液体が入ったビーカーを見つけた。ビーカーのラベルには、理科の先生の奥さんの名前が書かれていた。「振ってごらん。軽くね」いつの間にか理科の先生が斜め後ろに立っていて、僕に言う。先生は…

あなた、またあの女と心中する夢見てたでしょう。寝息に水の音が混じるから、すぐわかるんですよ。今朝は朝ご飯抜きですからね。

醤油

最近、飼い猫が、醤油さしを前脚でいじりながら、私を見つめて舌なめずりをするようになった。こいつに食われるなら本望だが、せめてプレーン味のままいってほしい。

コンビニで買い物している時、財布を忘れたことに気づいたので、仕方なく体で払った。「おつりです」店員はそう言って右目だけ返してくれた。左目の方が視力いいから、どうせなら左目がよかったな。

足跡

鋭い爪と水掻きのある足跡が、海の中から砂浜を突っ切り、馴染みの寿司屋の裏口へと続いていた。店先には「仕込み中」の札。耳をすませばかすかに大将とおかみさんの声。「よく来たねぇ」とか「偉いもんだ」とか、そんな言葉が途切れ途切れに聞こえた。その…

弁解

あの肉屋、おもしれーんだぜ。一番端っこに置いてある肉買うと、店の奥でおばさんが線香に火点けんの。

荷造り

その日世界は束ねられた。荷造り用の紐で。雲が束ねられ、木々が束ねられ、丘が束ねられ、海が束ねられ、鳥たちが束ねられ、飼い犬たちが束ねられ、野良猫たちが束ねられ、魚たちが束ねられ、ビルが束ねられ、電信柱が束ねられ、絵画が束ねられ、埴輪が束ね…

レモン

ねえ、かあちゃん。ばあちゃんのいえいがくちあけて、すげえながいベロだして、わらってる。 ベロにレモンじるたらしてほっときな。

せめて

もう誰もいないはずの時間、夜の闇に包まれた、理科室の扉の向こうから、フォークとナイフが皿に当たる音が聞こえてくる。ああ、せめて調理実習室に忘れ物をするんだった。

かべ

ああ、この口紅は、へへ、いや、おれがつかうわけじゃねえよ、女房につかうんだよ、ぬってやるんだ、おれが、女房のくちびるに、女房、いたよ、かべにうめたんだけどね、むかしのはなしだよ、ほら、そこのしみ、よくみるとひとのかおにみえるだろ、それ、女…

目医者の奥さん

目医者の奥さん、自転車のカゴに、畑で採れた目玉をたくさん詰めて、爽やかに走っていく、こんにちはあ、と声をかけると、目医者の奥さん、わざわざ自転車をとめて、いい天気ですねえ、と満面の笑みで、その笑みにどこかいつもと違うものを感じたので、何か…

隣の音

休日の朝だというのに、アパートの隣の部屋から、かれこれ一時間近く、まな板を包丁で叩く音がトントントントン鳴り続けている、どんな料理を作っているのか知らないが、さすがにイライラして、一言言ってやることにした、「すいませーん」、ドアチャイムを…

爆笑

近所の公園に行き、何気なく池を覗いたら、俺の顔が水面に映った瞬間、池の鯉たちが腹をよじらせて爆笑しはじめた、実に、実に気分が悪い、たぶん、この間、この池に沈めた女房が余計なことを吹き込んだんだろう。

はらわた

釣り針にかかった魚はすでにはらわたが食いちぎられていて、そのかじった跡には真っ赤な口紅がついていた、古参の漁師に見せてみると、彼は、あっ、と小さく驚いたあと、苦笑いを浮かべ、そういや、派手好きな女だったからなア、と言ったきり黙ってしまった…

林檎の樹

「夢を見たよ 夢の中で俺 山のように大きくなってたから 俺ん家食ってみたんだ そしたら何も味がしなかったよ だから 庭に 林檎の樹でも 植えなきゃならないね」 はい、お義父さん。

かみ

きのうは、××ちゃんのうちで、おとまりかいだったけど、ねるまえになって、おぶつだんのあるへやから、かみのやけるにおいがしてきたから、やっぱり、かえることになった。きょう、××ちゃんにがっこうであったら、まゆげのあたりに、ひっかかれたきずがあっ…

夕暮れの列車に乗っていた。向かいの席に女が座っていた。女は胸に、ガラス細工の赤ん坊を抱いていた。ガラス細工の赤ん坊に夕日が反射して、俺の目を射るのでちかちかする。よく磨かれているようだった。ガラス細工の赤ん坊は、女の腕の中で、うんともすん…

自動ドア

あのおばあちゃんがうちのコンビニに買い物に来ると、必ず自動ドアが閉まらなくなるんだよな。見えない何かに引っかかってるみたいに、ガッ、ガッ、って途中で止まっちゃう。おばあちゃんがレジで笑いながら言う「待たせると悪いから、早く買い物しなきゃい…

よこどり

ベッドで眠りかけていた私のもとに飼い犬がやってきて、床にごろんと仰向けになり、「撫でて」とでも言いたげな様子できゅーんと鳴いた。仕方ない、撫でながら寝よう。そう思い、目をつむったまま床の方へ手を伸ばし、飼い犬の腹を撫で回してやった。何だか…

燃えるゴミ

今年度のゴミの分別に関するポスターが、役所から届いた。何となく眺めていると、「燃えるゴミ」の項に俺の名前を見つけた。そうか、今年度から俺、ゴミなのか。残念だが、役所の言うことだから、間違いはないだろう。燃えるゴミの日は週に三日あるから、せ…

じゅわき

かぜにのって、じゅわきのかたちのくもが、あおぞらをながされていく。 かすかにふるえながら、じりりり、じりりり、とけたたましくベルのおとをならしている。 だれかでてやれよ、だれかでたほうがいいんじゃない、みんなくちぐちにそういうが、だれもでか…