トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

待ち針

母が死んだ。母の遺品の中に、古ぼけた裁縫箱があった。蓋を開けると、ある一本の待ち針と目が合った。そっと手を伸ばしたら、待ち針は私を避けるように針刺しから飛び出して、私の手をぷすりと刺した。血が出た。ついかっとなって、待ち針の頭の丸い部分に…

薄雲

ベランダに出て、夜空を見上げると、薄雲の向こうに、「充電中」の小さなランプが光っていた。きっと明日は、明るい月が見られるだろう。

そっち

クラスで飼っている金魚が一匹死ぬたびに、教室の時計が止まる。不思議な現象で、原因がわからない。とにかく金魚が死ぬたびに時計が止まる。はじめのうちは、この現象に感動して何かわけのわからない話をしていた担任の先生も、最近は、止まった時計にいち…

最近、飼い犬が、庭の隅の穴の中に、人間の指を集めている。「どこから集めてくるの?」「わふ?」要領を得ない。穴の中を覗くと、集めた指は、みんな爪が噛まれてボロボロだったり、ささくれだらけだったりして、それがちょっとほっとする。だって、綺麗な…

忘れ物

電車に乗った。吊革につかまった。目の前の網棚に、ごろんとしたビニール袋が置かれていた。よく見ると、男の生首が入っていた。目が合った。しかし、生首は俺のことなど見ていなかった。どこか遠くを見ていた。電車が動き出した。生首が揺れた。スマホも本…

大根

右手に包丁を握った瞬間、左手でおさえていた大根が汗ばんだのがわかった。わはは、覚悟せい、なんちゃって。……いや待て、これ、大根か?

おいしいもの

昨日、公園の砂場でおままごとの最中、ビー玉をなくした。今日、砂場の底からしゃっくりが聞こえてくる。ビー玉は見つからない。おいしいものだと思って、食べてしまったのだろうか。砂場にいる何かが。何せ昨日のおままごとは、とても盛り上がったから。

トンネル

「ここが噂のトンネルか」「封鎖されてるね」「ちょっと様子見てくるよ」……「どうだった?」「帰ろう。ここは近づいちゃだめだ」「どうして?」「トンネルの奥にのどちんこがあった」

あまりにうちのマンションの屋上から飛び降りる人が多いので、てるてる坊主を吊るすことにした。少しでも効き目があればいいけど。

夜、庭に出て涼んでいると、お隣の庭にある犬小屋の中に、小さな赤い光が見えた。よく目をこらすと、犬小屋の中にお隣のご主人がいて、四つん這いで煙草を吸っていた。何事かと思いじっと見ていると、やがて私に気づいたご主人は照れくさそうに笑い、「いや…

予定

通学路の途中に死体が落ちていた。手帳を確認する。今日の日付に、死体のシールが貼ってある。予定通りだ。予定通りに腰を抜かそう。

貼り紙

近所の家の外壁に貼られている、「剥ガスナ」とだけ書かれた貼り紙が、毎日、少しずつ、少しずつ、内側からじわじわと血で滲んでいく。

通勤に使っている道は田舎道なので、よく蛇が道の真ん中で死んでいる。そういう蛇の死骸を車でひくと、うちのカーナビはなぜか必ず「今、蛇を踏みました」と教えてくれる。そんな機能つけた覚えはないのだが。猫や人をひいた時には何も言わないのに。不思議…

市場

「市場で珍しいのが売ってたんだよ」出かけていた夫が、そう言って一人の背の高い青年を連れて帰ってきた。どうしていいかわからずとりあえず会釈すると、青年は深々とお辞儀を返してきた。よく見ると青年の右手の小指は、煙草のフィルターになっていた。「…

賽銭箱

近所のさびれた神社を何となく訪れ、古びた賽銭箱に小銭を投げ入れたら、妙な音がした。賽銭箱の中を覗き込むと、そこには小銭ではなく義眼がぎっしり。鈴を鳴らし、手を合わせている最中、ずっと賽銭箱の中から視線を感じていたから、本物の目玉も混じって…

死んだ風

子どもの頃、道ばたで死んだ風を見つけた。落ちていた棒でつついてみると、死んだ風はさらさらとさびしい音を立てた。そっと持ち上げて顔に当ててみたが、ちっとも涼しくなかった。死んだ風をカラスがねらっていたので、カラスに持ち去られてしまう前に、足…

ぼこぼこ

夕暮れ時。一人、部屋でぼんやりと壁を眺めている。壁に伸びる俺の影。夕日を浴びて無駄に長く伸びている俺の影。にゆっくり手を伸ばし、少しずつちぎっては、口に放り込み、それを酒であおる。影をちぎっては酒を呑み、ちぎっては酒を呑む。夕暮れ時という…

のびしろ

ある朝目覚めると、かかとにくっついていた「、」が、「。」になっていた。参ったな。自分にはもう少しのびしろがあると思っていたのにな。

観光名所の寺院の入り口で、俺だけ止められた。 「あなたは近いうちに人殺しになるから、ここには入らないでください」 ツアーガイドは顔を引きつらせて、坊さんの言葉をそう訳した。 俺は黙って、地元の不味い煙草を吸いながら、みんなの帰りを待っていた。…

地獄

今日は時間とお金に余裕があったので、地下鉄を乗り継いで地獄へ行った。半年前に死んだじいさんがいるだろう、と思って見回してみたが、それらしい亡者はいなかった。あんな強欲なじいさんが地獄に落ちていないなんてちょっとおかしいぞと思った。家に帰っ…

知恵

本棚の奥の動物図鑑から、焼き肉のにおいが漂ってくる。しばらく読まないうちに猿たちが知恵をつけてしまったらしい。

ぴょん

朝、鏡を覗くと、頭のてっぺんから髪の毛が一本、ぴょんと飛び出していた。かっこ悪かったので抜いてしまおうと思い、ぐいっと引っ張ってみて気づいた。それは髪の毛ではなく、ほつれた糸だった。面倒くさがらずに、ハサミで切ればよかったなぁ。どうしよう…

実家暮らし

朝起きると、時計の針が100時100分を指していた。カーテンを開けると、極彩色の空を、巨大な母の生首がぎらぎら照らしていた。あの様子だと、まだ朝食は出来ていないだろう。もう一眠りしようっと。

演出

雷鳴かと思ったら、ドラムロール。雷光かと思ったら、スポットライト。山の化け物が、生け贄をさらいに来る時の演出が、年々華やかになっている。今年は俺が選ばれたのだが、長いドラムロールの後、バン!とスポットライトが当てられ、同時にファンファーレ…

昨日

脳天につまようじを刺した試食用の俺たちが、体育座りでスーパーの床に並んでいる。大声を張り上げる試食担当のおばさん。虚空を見つめる試食用の俺たち。おばさんの頑張りもむなしく、誰も試食用の俺たちを試食してくれない。一瞥するだけで通り過ぎていっ…

庭で遊んでいた息子がとつぜん空を指さして「へびー」と言った。見上げると、なるほど確かに蛇の形に見える雲が浮かんでいる。にょろんとした体はもちろん、先端に頭に見える部分もあって、さらにそこからちょろりと舌に見える小さな雲も飛び出している。確…

ここどこ

ここどこここどこねえここどこ。誰だそんなことを言っているやつは。一人暮らしの俺の部屋のどこかでそんなことを言っているやつは誰だ。ここどこここどこねえここどこなのよ。俺はじっと耳を澄ます。声の出所がだんだんわかってくる。ここどこここどこねえ…

相乗り

前を走っていた車のマフラーから、何か黒い綱のようなものが飛び出していた。よく見るとそれは三つ編みの髪の毛だった。さっきまで、あんなものなかったはずだけどな。おや、おでこが現れた、と思ったら、眉、目、鼻、口、首、肩、胸、おなか、太もも、と次…

縁の下

縁の下から、尻尾のちぎれたトカゲが大慌てで走り出てきた。

SF

親戚の子をだっこしたら、素手でメガネを触られた。指紋を拭き取ろうとした時、その子の指紋に、製造番号が入っていることに気づいた。なんか、SFみたいだなぁ、と思った。