トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

どこかできいた話

誘う目

女性の目が好きだ。 だから俺が恋人の写真を撮ると、自然と顔のアップが多くなってしまう。 ある日彼女がアルバムをめくりながら、「○○君って、食べられない部分ばかり撮るんだね」と言って笑った。「アルバムめくるたびにお腹空いちゃうから?」 俺はただ黙…

ねえ、給食の時間に目隠しさせられるのって、うちのクラスだけらしいよ。

取引

何となく寝付けないので、隣で寝ている女の顔を眺めていたら、ふいに女の腹の辺りに掛かっている布団の下で、何かがもぞもぞと動いた。 不審に思って布団をめくると、女の腹の上を、積荷を背負った馬と商人らしき男が歩いていた。 馬と商人は女の体の上をゆ…

ベイビー、ユーアーリッチマン

偶然通りかかった自販機のガラスケースの中には、女の首が一つ納められていた。 首の下にはコインを入れる穴と、何も書かれていない大きなボタンがあるだけだった。 財布の中にあった小銭をすべて入れ、ボタンを押すと、女の首がガラス越しに小さく笑った。 …

栄養

誰かが線路に飛び込むたびに、あの列車は肥っていくんですよ。

愛妻弁当

昨日の夜、大喧嘩をした嫁が、今朝何事もなかったかのように弁当を手渡してきた。 その日は午前中から仕事が立て込み、いつもより昼飯の時間がだいぶ遅れてしまった。 ようやく休憩時間になり、鞄から弁当箱を取り出すと、弁当箱の底を突き破って、細かな棘…

しつけ

理科の実験で解剖したカエルの腹の中には、感謝の言葉が綴られた置手紙の他に何も入っていなかった。

いい日旅立ち

彼の切れ端に足を滑らせて、フローリングに転んでしまった。 思い切りぶつけた膝がじんじん痛む。 でも、これが彼から受ける最後の暴力だ。 湿った箒を右に左に動かす私を、夕闇がゆっくりと包んでいった。

ふたりで肥る

最近ちょっと食べ過ぎかな、とは思っていたが、風呂上がりに体重計の上に乗ってみたら、案の定ちょっと増えていた。 とりあえずダイエットはするとして、私が肥ったなら彼にも肥ってもらわなきゃいけない。 クローゼットの奥からもう着ない服や古いバスタオ…

関門

私をモデルに、画用紙にクレヨンで機嫌よく絵を描いていたアヤちゃんが、ふいにピタリと手を止めて、難しい顔をし始めた。 どうやら、私の腰から下が徐々にグラデーションで消えているその境目を、どう描いたらいいのか悩んでいるらしい。

研究報告

古生物学者たちの長年の研究の結果、某国のある地層から発見された生物の化石に共通する謎の骨片の正体は、骨ではなくファスナーの部品らしいという結論が導かれた。

恐るべき子どもたち

係の男に整理券を手渡し、案内された蛇口をひねると、黒っぽい液体が流れ出てきた。 男の子だ。 役所のパンフレットによれば、これを好きな型に詰めて冷凍庫で固めれば、入園式までには余裕で間に合うらしい。とりあえず一安心だ。 しかし子どもってのは本当…

ファミリーレストラン

向かいの家の家族は、雨が降ると一家揃って傘もささずに外出し、雨が止む頃、ぶよぶよに肥って帰ってくる。

今日もまた、名前を呼ばれた愛犬が、壁の中にいる誰かに確認をとってから、私のもとに駆け寄ってくる。

猫のゆりかご

散歩中に通りかかった林道の外れから、小学生の集団がわいわい騒ぎながら現れた。 それぞれが手に給食の余りらしきパンや牛乳を持っていたので、捨て猫でもいるのかと思い、林道の奥へ行ってみると、案の定落ち葉の上に段ボール箱が置かれていた。 近づいて…

ママはご機嫌

クラスメートに笑われないようにと、お母さんは今日の遠足のお弁当にお肉をたくさん入れてくれた。 甘辛い味付けのそのお肉はとても美味しかった。 家に帰り、お母さんにありがとうと言いながら抱きつこうとしたけど、もうお母さんには抱きつけるところがな…

ダイアリー

水槽の底の死んだ蟹を一日見つめていた。 夜の11時頃、蟹の口からちいさなあぶくが一つ浮かび上がった。 よかった。 日記に書くことができた。

身代わり

役所の用意した祭壇に、年老いた母子連れが手をつないで近づいていく。 今日はあの二人か。 でも、一日一人だけって決まりだったはず。 どっちなんだろう。 ……あ、昼休みの鐘だ。 母親ならラーメン屋、せがれの方なら牛丼屋だな。

ネイチャー

子犬の足跡みたいな雲が、秋空に点々と浮かんでいた。 雲の行き先を追いかけていくと、空の上で大きな子犬が飛行機を食っていた。

お母さんの種

お母さんの種を庭に埋めたが、近所の子どもにいたずらされてしまったせいで、結局エプロンしか採れなかった。

毒とピアノ

ピアノがうっすら埃をかぶっていたので、海に毒を流すことにした。 この前私の指を噛みちぎって逃げた人食い魚の腹の中から、早く私の指を見つけて元通りくっつけないと、ピアノがかわいそうだ。

傷痕

彼が眠っている間に、胸のキスマークを削ぎ落とさなきゃ。

髪と陽

もう死んでやる、といつもの調子でつぶやいて彼女はビルの階段をのぼっていった。 うだるような暑さの中、僕は心身ともに疲れ果て、彼女を追いかける気力もなく、ただぼんやりと足元の影を見つめていた。 どのくらいの時間が経っただろうか、蝉の声がふいに…

液体

突然降り出した雨に思わず空を見上げると、雨雲に出刃包丁が突き刺さっていた。

煮込む

レシピには弱火で煮込むと書かれていたが、鍋の中からくしゃみが聞こえてきたので、思い切り強火にすることにした。

迫真

死体役として舞台に倒れている俺に、天井からぶら下がった人々が惜しみない拍手を送っている。

乾燥

やっとのことで回り始めた乾燥機の中から、チャリチャリという音が聞こえてくる。 ああ、そうか。 付け爪が外れてしまったんだ。

カボチャ

ゆでた掌をザルに上げた瞬間、風呂上がりを連想してビールを飲みたくなった。 何でだろう。お酒なんて一滴も飲めないのに。 一度だけ飲んだことはあるんだけど、気持ち悪くなるばかりでちっとも酔えなかったから、それ以来お酒は飲んでいない。 もちろんビー…

レシピ

この魚は死んだ後も涙を流し続けるので、塩は少なめにしましょう。

先生のお話

夏休みだからといってだらしない生活をしてはいけませんよ。 神様に捧げられる人以外は夜更かしはやめましょうね。 ではまた休み明けに!