トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

目医者の奥さん

目医者の奥さん、自転車のカゴに、畑で採れた目玉をたくさん詰めて、爽やかに走っていく、こんにちはあ、と声をかけると、目医者の奥さん、わざわざ自転車をとめて、いい天気ですねえ、と満面の笑みで、その笑みにどこかいつもと違うものを感じたので、何か…

隣の音

休日の朝だというのに、アパートの隣の部屋から、かれこれ一時間近く、まな板を包丁で叩く音がトントントントン鳴り続けている、どんな料理を作っているのか知らないが、さすがにイライラして、一言言ってやることにした、「すいませーん」、ドアチャイムを…

爆笑

近所の公園に行き、何気なく池を覗いたら、俺の顔が水面に映った瞬間、池の鯉たちが腹をよじらせて爆笑しはじめた、実に、実に気分が悪い、たぶん、この間、この池に沈めた女房が余計なことを吹き込んだんだろう。

はらわた

釣り針にかかった魚はすでにはらわたが食いちぎられていて、そのかじった跡には真っ赤な口紅がついていた、古参の漁師に見せてみると、彼は、あっ、と小さく驚いたあと、苦笑いを浮かべ、そういや、派手好きな女だったからなア、と言ったきり黙ってしまった…

林檎の樹

「夢を見たよ 夢の中で俺 山のように大きくなってたから 俺ん家食ってみたんだ そしたら何も味がしなかったよ だから 庭に 林檎の樹でも 植えなきゃならないね」 はい、お義父さん。

かみ

きのうは、××ちゃんのうちで、おとまりかいだったけど、ねるまえになって、おぶつだんのあるへやから、かみのやけるにおいがしてきたから、やっぱり、かえることになった。きょう、××ちゃんにがっこうであったら、まゆげのあたりに、ひっかかれたきずがあっ…

夕暮れの列車に乗っていた。向かいの席に女が座っていた。女は胸に、ガラス細工の赤ん坊を抱いていた。ガラス細工の赤ん坊に夕日が反射して、俺の目を射るのでちかちかする。よく磨かれているようだった。ガラス細工の赤ん坊は、女の腕の中で、うんともすん…

自動ドア

あのおばあちゃんがうちのコンビニに買い物に来ると、必ず自動ドアが閉まらなくなるんだよな。見えない何かに引っかかってるみたいに、ガッ、ガッ、って途中で止まっちゃう。おばあちゃんがレジで笑いながら言う「待たせると悪いから、早く買い物しなきゃい…

よこどり

ベッドで眠りかけていた私のもとに飼い犬がやってきて、床にごろんと仰向けになり、「撫でて」とでも言いたげな様子できゅーんと鳴いた。仕方ない、撫でながら寝よう。そう思い、目をつむったまま床の方へ手を伸ばし、飼い犬の腹を撫で回してやった。何だか…

燃えるゴミ

今年度のゴミの分別に関するポスターが、役所から届いた。何となく眺めていると、「燃えるゴミ」の項に俺の名前を見つけた。そうか、今年度から俺、ゴミなのか。残念だが、役所の言うことだから、間違いはないだろう。燃えるゴミの日は週に三日あるから、せ…

じゅわき

かぜにのって、じゅわきのかたちのくもが、あおぞらをながされていく。 かすかにふるえながら、じりりり、じりりり、とけたたましくベルのおとをならしている。 だれかでてやれよ、だれかでたほうがいいんじゃない、みんなくちぐちにそういうが、だれもでか…

いないいない

海岸沿いを歩いていたら、釣り人の格好をした男が、クーラーボックスのフタを開けて中を覗きこみながら、「いないいないばあ」を繰り返していた。すれ違う時、クーラーボックスの中で何かが勢いよく跳ねる音が聞こえてきたが、もしかしたら笑い声だったのか…

いらいら

最近、いらいらする出来事が多くて、舌打ちばかりしている。仕事中でも、家の中でも。そんな自分にもいらいらして、つい舌打ちをしてしまう。そんなある日、歯と歯の隙間に置き手紙を残して、舌が口の中からいなくなってしまった。「もううんざりです」手紙…

ちゅうい

ああ、この家か。 伝票に書かれた住所を見て、思わずため息がこぼれる。 いやなんだよな、この家に配達に行くの。 なんなんだよ、玄関のあの張り紙。「元人間にちゅうい」って。

近い

首吊りに使われた街灯が、その日を境にどんどん猫背になりつつある。まぁ、気持ちはわかるけど、そんなに落ち込むなよ。近いよ。眩しいよ。

こっぷ

くすりをのむのにつかったこっぷが、こいのぼりみたいなおおきなくちで、びょうきがなおったらぴくにっくにつれていってください、といったので、どこへいきたいの、とたずねると、こっぷは、やわらかいつちのうえなら、どこでも、とこたえた。おもいきりこ…

しるし

おかえりなさい あれ? ねこでもひいた? かげが すごくつめたいよ

蛸、あじはしらない

まいにち、ゆうぐれどきに、みせのまどのまえをとおるおんなのこが、てをふっていたあいては、おれではなく、いけすのなかの蛸だった。蛸のやろう、さいきん、ゆうぐれどきにやたらあかいから、よくしらべたら、そういうことだった。あるよる、蛸のにぎりを…

好き嫌い

あなたの部屋の上の部屋で男が殺されたんです。若い警察官はそう言った。 けれど死体が見つからないんです何か知りませんか。若い警察官はそうぼやいた。 さあ。 そうですか。 それから一週間ほど経った頃、私の部屋の天井に、その殺されたという男らしい顔…

母ちゃん。 あの雪だるま、いつまで経っても、溶けないね。 ××ちゃん。 お坊さん呼んできて。

深夜バイトの帰りに、夜明け前の薄暗い商店街を歩いていたら、暗がりから妙な音が聞こえてきた。音の方へ目をこらすと、随分前に夜逃げした洋服店のショーウィンドウの中で、カラス?の群れが、マネキン?の腹?をくちばし?で破り、肉?を食って?いた。「…

、と。

庭の柿の木から実を一つもぎり、切り分けていると、本来なら種のあるべき場所に、種ではなく、丸いドーナツみたいなものが埋めこまれていた。五分くらい考えて、そのドーナツみたいなものが、句点であることに気がついた。するとどうやら、今まで種だと思っ…

授与

右手にナイフを握りしめた男が ニコニコ笑いながら 人ごみの真ん中で 俺にそのナイフを振り下ろそうとしている が 道行く人も警官も何も言わないのは その男の左手に 俺の耳をかたどったトロフィーが 抱えられているからなのだろう 夕暮れの街の路上で 賞品…

隣人

この辺の土地は、夜になると、電信柱の立ち並ぶ中に、たまにストローが一本、混じっていることがあるんですよ。そうです、ジュースとか、吸うための、あのストローです。だもんでね、夜に、ワンちゃんを散歩させる時は、気をつけてあげてほしいんですよ。人…

治る

千羽鶴をぶら下げた、細い雲が、何本も、何本も、ゆっくりと、ゆっくりと、空を流れていく。 真っ青に輝く夕日に向かって。 早く治るといいね。 俺には、そんなことしか。

侵略

昼寝をしていた。 * 夢をみた。 * 緑色の手と、握手する夢。 * 目覚めると、体が金縛りみたいに、動かせなかった。目だけ動かして、周りを見回すと、私の胸に、小さな旗が刺さっているのが見えた。 * お子様ランチみたい。だと思った。 * へそからは眩…

ウィンク

ベランダで星を眺めていたら、一つの星がウィンクするように瞬いたので、思わずこちらもウィンクを返すと、その星はふっと消えて見えなくなった。 次の瞬間、足元に何かが落ちてきた、軽い音とともに。 一通の手紙だった。 青だか赤だかわからない不思議な色…

ピィぷぅ

充電してください 充電してください ベビーベッドの中でそう繰り返す 妹の声が聞きたくなくて 俺はピィぷぅピィぷぅ鳴るビニールの犬を ひたすら踏みつけ続けていたっけ

蝶も俺も

夜、家に帰ると、玄関の上の方がほんのり明るい。よく目をこらすと、大きな蜘蛛の巣の中で必死にもがく蝶のシルエット、その蝶のシルエットの上を、プロ野球の結果を伝えるニュースが右から左へ流れていくのが見えた。 電光掲示板に擬態する蝶だ。この辺で見…

象の話をいくつか

【林檎】 大きくあくびをした嫁の喉の奥から、象の鼻がにょろりと飛び出た。嫁は慌てて口をおさえていたが、もう遅い。見てしまった。いつからなんだろう。まさか、この林檎農家に嫁いできた時にはもう既に? 【少女】 うそだあ。ほんとだよ。うそだあ!ほん…