トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

鉄扉

3305号室の方は、この回覧板を3307号室に回してください。 ※3306号室の人は剥製です。

複眼

図書館で昆虫図鑑を眺めていると、「珍しい虫」のページに俺と同じ名前の虫が載っていて、「特徴」の項に「生涯を幻覚の中で過ごす」と書かれていた。

夜の正しさ

最近頻繁に首を寝違えるので、寝相に問題があるのかもしれないと思い、ビデオカメラを買って一晩中回しっぱなしにしておいた。 翌日、録画した映像を見ると、寝入った直後から目覚める直前まで、首が映っていなかった。

共生

ささくれを剥いた。 何かと目が合った。

似た者同士

梁で首を吊っている母に、あくびがうつった。

許されざる者

おじいさんの最初で最後の土下座は、ねずみの舌の上でした。

宝くじ

隣の家の娘さんの話を要約すると、毎朝アパートの壁越しに聞こえてくる物音の正体は、隣の家族が新聞のお悔やみ欄を回し読みしながら発する舌打ちの音らしい。

ベビーパウダー

赤ん坊の耳掃除をしていたら小さなネジが出てきた。 慌てて病院に駆け込むと、先生も看護婦さんもとても丁寧に対応してくれて、ネジはすぐに元通りになった。 夜、仕事から帰ってきた夫に、「産んだばかりなのに壊したかと思った」と言ったら、「産んではい…

22時40分

電気を点けようと暗闇を手で探っていたら、何かコリコリした物に手が触れた。結論から言うと、喉仏だった。

原因

あら、今月は水道代が高いわ。 あの女を沈めたせいね。

天気予報にチャンネルを合わせると、日本地図全体を「!」マークが覆っていた。 明日は太陽が四角い日なので、 知っている方以外とは絶対に言葉を交わさないよう 注意してください 女性アナウンサーはそう言って頭を下げた。 参ったな。 明日面接なのに。

もしもし。 警察ですか。 車で人を轢いたのに笑ってるんですよ。 あ、私がです。

ピクニック

昨日は家族でピクニックへ行きました。 海がよく見える高台で、みんなでお母さんのサンドイッチを食べながら、海の底を歩いている人たちを眺めました。 手錠をしたおじいさんがウツボに脚をかじられて転んだのを見て、みんなで大笑いしました。 あっちに生ま…

綿とこころ

ぬいぐるみを散々いじめてから糸をほどいてごらん。綿が出てくると思っているとびっくりするよ。 それが彼女の最後の言葉だった。

ドミノ

喫茶店の隅の席で、若い母親がベビーカーに向かっていないいないばあをしている。 母親が「ばあ」と手を広げるたびに、ベビーカーの中から笑い声が聞こえてくる。 微笑ましい光景だが、ベビーカーの中から笑い声が聞こえてくるたびに、喫茶店のすぐ傍の交差…

教育者

我が家の花壇に植えられた花々は、一番美しい時期が過ぎると自ら、庭の隅の肥溜めに向かって茎を伸ばしていきます。 父と母の教育の賜物です。 私もいずれ

リッチマン

屋上に行くと隅の方に無人販売所があって、薬のカプセルみたいな物が並べられていた。 看板の説明によると、これを飲むと血の色を好きに変えられるらしい。 100円置いて緑色のを買って、水を持ってこなかったことをちょっと後悔しつつ飲み込み、フェンスを越…

坂の家

先生が頭をかきむしりながら、丸めた原稿用紙を畳の上に投げ捨てる。 この作品のために殺された先生の奥様の死体が、部屋の隅でまた少し腐っていく。 遠くで夕暮れの鐘が鳴っている。 壁に立てかけられた奥様の中からひょいと顔を出した蛆が、部屋に差し込む…

方法

家の近所に、「人を食う化け物が棲む」と言われている山がある。 先日、その山の入り口にパトカーが何台も停まっており、野次馬がそれを遠巻きに眺めていた。近所の奥さんが野次馬の中にいたので話を聞いてみると、どうやら不審者が山の中をうろついているら…

集める係

ランドセルを開けると、髪の毛がどっさり入っていた。他の子のランドセルには、手足や目玉が入っていた。 集める係の子が教壇に上がり、集めるための箱の蓋を開けた。「教科書が汚れちゃった子は図書室で交換してきていいからね」 先生が優しく微笑んで言う…

定期報告

毎年この時期に漁に出ると、引き上げた網の中に、魚に混じって一台の古びたそろばんが引っかかる。 玉の並びは毎年微妙に違うが、古参の漁師の話では、その前年に海で亡くなった人の数とぴったり一致しているらしい。 そろばんを見つけてしまったら、そのま…

絆創膏のおばさん

スーパーマーケットでアルバイトをすることになった。 初日、仕事の説明を一通り終えたチーフが、最後に「そうそう。絆創膏のおばさんが来たら、すぐに教えて」と言った。「絆創膏のおばさんって何ですか?」「そういう人がたまに来るんだよ」「どんな人です…

冷たい枕

幼い私が、高熱を出して布団の中で震えている。母が私の手を撫でながら「すぐ治るから早く寝ちゃいな」と優しく言うので、私はひとまず安心して目をつぶって寝ようとするが、やっぱり不安で寝つけず、ますます朦朧とする意識の中で、「このまま自分は死んで…

2.0

視力検査表の一番下までくっきり見えてはいるのだが、検査表には、踏まれて様々な形に潰れた何かの死骸が貼りつけてあるだけなので、目医者に何が見えているのかをどう伝えていいのかわからない。 あれ。どうして「踏まれた」って知ってるんだろう、私。

桃の皿

久しぶりに友人の家に遊びに行った。 居間で談笑していると、友人の母が盆を持って現れた。盆の上には三枚の皿があり、それぞれに切り分けた桃が盛りつけられていた。 友人の母は私の前に皿を置き、「どうぞ」と優しい声で言った。「ありがとうございます」…

サイレン

夜、コンビニに行く途中、道ばたで赤ん坊の私を拾った。 高校生の私がいるレジでオムツとおでんを買い、帰路を歩いていると、犬の私が生ごみの私を貪り食っていた。「違うんですよ、これは私なんです」 生ごみの私が恥ずかしそうに言う。赤ん坊の私と混ぜた…

ですか?

「このまえひいたねこですか?」 買い物に行った帰り道、すれ違った若い女に突然尋ねられた。「このまえひいたねこですか?」 再びそう言って、若い女は買い物袋を指さした。どうやら、私がさっき買った牛肉のことを言っているらしい。「このまえひいたねこ…

首輪

公園でペットを散歩させていた私に少女が駆け寄ってきて、「犬の部分だけ撫でてもいい?」と尋ねてきた。賢い子だ。

尾と舌

××さん家の奥さんが夕飯の支度を始めると飼い犬が怯え出すのは、我が家だけではなかったらしい。 しかし、今さらそれを知ったところで、飼い犬の怯えた顔を見たくて夕暮れを心待ちにしている私は、もう手遅れなのだろう。

モダンタイムス

病院の売店に置かれているガチャポンのカプセルを開けると、血の入った小袋が出てきた。 大当たりだ。 でも、お母さんを元気にするにはまだまだ足りない。 財布の中を見てみると、今月のお小遣いは残りわずかだった。 どうしようかな。 まあいいか。 アイス…