超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2012-09-30から1日間の記事一覧

父と火柱

ある晩、父が火柱になってしまった。 母の悲鳴を聞き寝室に駆けつけると、布団の上に細い火柱が立っていた。 大きな四角いレンズのメガネが、火柱の上部で頼りなく揺れていた。唯一残された父の痕跡だった。だが、それもじきに燃え尽きてしまった。 * 次の…

階段と女

自宅のアパートの階段に、見慣れぬ女が腰かけていた。 膝を抱えて、自分の足元をじっと見ている。外人みたいな目をした、むちむちした体の女だった。長いスカートと、ブルーのシャツ。ウェーブのかかった髪を後ろで縛っていた。化粧は薄く、肌の感じからする…

竜巻とホテル

アルバイトの帰り道、ラブホテル街を歩いていたら、自販機で小さな竜巻が売られていた。手のひらに乗るサイズで、1時間ほどで消滅してしまうらしい。 次の日同じ道を通りかかると、中年のカップルが自販機で竜巻を買っていた。 男が小銭を入れ、スイッチを押…

栗子さんと水の音

栗子さんは田舎町に生まれた。ある夏の晩のことだった。 栗子さんがこの世に咆哮をあげた瞬間、分娩室にいた人々は部屋がぐにゃりと歪むのを感じた。人々は栗子さんの顔を覗き込み、その美しさに息を呑んだ。栗子さんを取り上げた看護婦は栗子さんを胸に抱い…