超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

2012-09-06から1日間の記事一覧

血と穴

飲み屋で友人と騒いでいたはずだったが、気がつくと夜道に倒れていた。服も携帯もゲロまみれだった。周りには誰もいなかった。 倦怠感が拘束衣のように全身にまとわりついていた。頭が痛かったので手を当てると、血が流れていた。口の中に錆びた鉄の味がした…

ロボットと少女

ロボット犬のウンコは美しい。半透明で、光の当たり具合で七色に変化する。しかも果物や花のにおいがするので、女子高生にとても人気がある。 そんなロボット犬のウンコを手首に巻いた女子高生がある日の放課後、ロボット教師にパンツと唾を30000円で売った…

ぶたとおおかみ

狼が死んだ。身寄りはなかった。葬式に来たのは、長男豚だけだった。 坊主の説教を聞いているとき、鼻の奥に埃と藁のにおいがつんと漂った気がした。 狼は小さな学習塾で数学を教えていたが、ある夜、夢の中で猟師に撃ち殺されてから少しずつおかしくなり、…

部品と存在

退屈な退屈な退屈な退屈な退屈な授業中にシャープペンを分解していたら、机の上に広げた部品の中から、徘徊中にいなくなったおじいちゃんがひょこひょこ出てきた。 おじいちゃんは僕を見て何か叫んでいた。声は聞こえなかったけど、吐きたくなるような口臭は…

夜更けの廊下と死なない家族

CGの父が仕事をする、CGの書斎。 CGの母が眠る、CGの寝室。 CGの妹が下着を選ぶ、CGの6畳間。 それらを結ぶCGの廊下に、実写の僕の実写のうんこが、ぽつんと落ちている。

亀とドリル

亀をいじめる子供たちが全員、両手がドリルだったので、太郎は釣竿を磨くことにしました。 それから、この海岸は明日からモーゼが海を割る練習に使うので、しばらく立入禁止になります。 よろしく。

あなたとわたし

(一) (親父の墓参りに行くのはいつだっけ?) などということを考えながら、あとむはうらんの鼻の下の産毛を唇で挟んだ。 うらんは固く目を閉じ、右手で前髪を隠して、左手であとむの尻を触りながら言った。 「あんたがあたしのうえにのっかってきて、わた…

ヒーローと母

彼は正義のヒーローである。 彼は今日、港に現れた怪人とその眷属50人を叩きのめした。 夕方秘密基地に戻り、書類をまとめ、正義の博士の判をもらい、タイムカードを押し、ロッカー室で普段着に着替えたあと、地元のスーパーに赴き、万引きで捕まった母を迎…

ジョークグッズと午後の四畳半

することも、会う人も、口ずさむ歌もない、空白のような午後に、湿った畳にあぐらをかいたまま何気なく金玉を持ち上げて、裏側を見てみたら、皺と皺の隙間に 「これはジョークグッズです。」 と書かれてあった。

雀と桜

四月の蒸し暑い午後のことである。川辺の桜並木は、大勢の花見客で賑わっていた。地面に広げられた色とりどりのビニールシートの上では、無数の人間がひしめき合い、桜を見ては笑ったり泣いたりしていた。 いや、桜を見ている者はむしろ少数だったかもしれな…

肖像と毛

図書委員のYくんが修学旅行に持参した3枚のブリーフには、ナポレオン、勝海舟、シド・ヴィシャスの顔がそれぞれ、へたくそな刺繍で縫いこまれていた。 Yくんの母さんは両手の指に刺し傷をたくさんこしらえた。 けれどやっぱりYくんは風呂の時間、変なところ…

象と穴

下着泥棒が戦利品を隠すために掘った穴に象が落ちて、首の骨を折って死んだ。 いなくなった母を捜すため、サーカスから逃げた象だった。