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トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。隔週土曜日更新。

スタンド・バイ・ミー

俺がバイトするコンビニに深夜、オモチャのロボットが酒を買いに来た。 自分の背丈ほどもある缶ビールを抱えて出ていく足音が、カチャカチャと物悲しかった。 街はもう3月だ。 オモチャのロボットにも酔わなきゃやってられないような別れがあるのだろう。

月と夜空(改訂)

夜の屋台でかけ蕎麦を手繰っていたら、つゆに満月が映っているのに気が付いた。 月見そばか、と心の中で冗談を言いながらつゆをすすると、月が前歯にこつりとぶつかった。 思ったより腹の足しにはなったが、夜空は真っ暗になってしまった。

生きものの記録

のぼり坂を機嫌よく歩いていたら、それまで吹いていた心地の良い風がとつぜん凪いでしまった。 お母さんから渡された買い物のメモを握りしめたまま、不安になって立ち止まる。 耳を澄ますと、坂の上の丘の向こうから、ペンを動かす音が響いてきた。 どうやら…

ニューヨークニューヨーク

真昼間の波止場で、腹から血を流して倒れている男 目をいっぱいに見開いて、天高く輝くアレが、おっぱいなのか太陽なのか確かめようとしている。 さようなら。

めまい

自転車のかごに神様の首を入れて、少年が山道を駆け下りていく。 少年の火照った胸にまとわりつく汗を、夏の風が心地よく舐めていく。 上級生たちの驚く顔を想像して、少年は上機嫌だ。 少年の家では、まだ幼い彼の妹のおっぱいが、突然かたく張り出していた…

鈴と金魚

誰かが池に落とした鈴を飲み込んだ金魚が、縁日の屋台の桶の中をりんりんと泳ぎ回っている。 鈴の分だけ体が重いから、誰にもこの金魚をすくうことはできない。 祭の灯が消え縁日から人が去る頃、ほとんど空っぽになった桶を片付け、「しかたねえなお前は」…

ファミリーサーカス

私がまだ幼かった頃星を盗んで食べたことがあります 怒ったお月様に追いかけられてよく噛みもせず慌てて飲み込んだもんだから大人になった今でもお腹の中で星は光ったままです だから今まで子どもは何人も出来たけど皆「まぶしい」と言って生まれる前に去っ…

ライクアヴァージン

わざとらしい笑い声が響く団地の片隅で母親がテレビのボリュームを上げた 雲の上でパパが歯磨きしてるという娘のつぶやきをかき消すように

スウィートドリームス

らぶゆーと彼女は囁き私の小指を飲み込んだ。 部屋の外では年老いた見張り番が古い映画の夢を見ている。

月と葡萄

今日が終わり、今日がまた来る。 ふと見上げた夜空には満月がいくつもいくつも浮かんでまるで葡萄の房のようだ。 また少し狭くなったベッドの中で私が私の指に指を絡ませてくる。 また少し明るくなった月明かりから逃れるように私が私の手から毛布を奪う。

月になる

夜中にこっそりベッドを抜け出し、夜空に寝そべり、黄色い毛布をすっぽりかぶり、満月のマネをしてふざけていた姉は、やがて夜の闇に少しずつかじられて、半月になり三日月になり、とうとう跡形もなく消えてしまった。 次の日の朝、病院の人は、誰もいないベ…

ラバーズ

さよなら、愛しているよ。 真っ二つに切られる直前、トマトは確かにそう叫んだ。 べとべとになった手を洗い、冷蔵庫を開けると、レタスときゅうりがほのかに赤く色づいていた。 野菜室の中で何があったか知らないが、今日の夕方こいつらを八百屋で買ったとき…

猫と列車

満員電車に揺られていたら、どこかから猫の鳴き声が聞こえてきた。 乗客がざわざわしながら辺りを見回しているが、どうも私の足元に声の主がいるらしい。 そっと下を見てみると、子猫が2匹、不安そうに私を見上げていた。 白と灰色のまざった子猫が2匹、右の…

公園の藤棚の鳥の巣に、給食のパンをちぎってあげていたら、立派な服を着た人たちが空の上からおりてきて、「巣の中に巣があるわね」と笑いながら僕にパンを投げて寄越した。 僕は力なく笑いながら、パンについた砂を払った。

へそと手紙

弟か妹のつもりで接していた屋根裏のネズミがある日、俺の部屋にお別れを言いに来た。いつものぼさぼさの毛皮ではなく、小さな宇宙服を着て、小さなヘルメットを小脇に抱えていた。 天井を指さすので、天井の板を外し屋根裏を覗くと、小さな通信機の光のチカ…

氷と寝癖

寝ているあなたをそっと氷に閉じ込め、ベッドに乗せて窓に立てかけて、午後の陽を浴びながらサンドウィッチを食べる。 少しずつ溶けていくあなたのところへ、飼い猫がやってきて、喉を潤す。 目覚めたときのあなたの驚いた顔を想像して、思わずにやにやして…

額縁とクラゲ

描かれた海がほどけ、水の色を脱いだクラゲが額縁から逃げ出した。 見つからないように私の家を抜け出し、野良猫の追跡をふりきり、海へ行く列車に乗り込んで、今頃はどこかの勤め人の革靴の上で疲れた体を休めているだろう。 * 残された私は空っぽになった…

星と砂糖

本を閉じて目薬をさし、土曜日の月に腰かけて、生まれ育った町をぼんやりと眺めている。 かじりついたドーナツからこぼれた砂糖の粒が、星のふりをして夜空に降り注ぐ。 生きていた頃と何も変わらない退屈な町が、少しだけ色っぽく見える。 * 背の高いマン…

月とホットケーキ

台所でホットケーキミックスを混ぜていたら、ふいに雨音が途絶えた。朝から降っていた雨が夕方になってようやく止んだらしい。 リビングに行き窓を開けたら、どこからか土のにおいがした。 * たてつけの悪い窓を閉める時、土のにおいに古い思い出を呼び起こ…

にんげんの指にんげんの耳

両目をギョロギョロと動かしながら、じゃあこの問題をナカムラ、と言ってタカハシ先生は乾いた鱗に覆われた指の間からチョークを床に落とし、それを長い舌で拾おうとして、はっと我に返った。 ナカムラさんはそんな先生を意にも介さず、ツカツカと黒板に歩み…

鍋とラード

夕日を遮るたくさんの影の中から、笑い声が聞こえる。 ラジオから流れる夕暮の歌の中で、私はうつむいて立ち尽くしている。 夕日のほとりのドブ川に、すえたワインのにおいが立ち込めている。 ラードで地面に描かれた輪の中で吐き気をこらえる私を見て、チー…

いつも

元の私に着替えてくるから、そこで待ってて、すぐに済むから。 いつものようにそう言って彼女は窓枠に腰かけ、カーテンをさっと引いた。 * ベッドに身を沈めラッコみたいな格好で天井を眺める。 カーテンが目の端で揺れるたびに、紙切れみたいな光の欠片が…

羽根と火の輪

夕暮の児童公園に火の輪が佇んでいる。 もう随分前にサーカスを追い出された、古ぼけた火の輪だ。 ちろちろと切れの悪い小便のような火を身にまとい、かつてその身をくぐらせたライオンや虎の顔を思い出して、ぼんやりと日を潰す。 藤棚の上で火の輪を睨む、…

蛇と笛

ずっと昔、酔った女を俺の部屋で介抱していた時、乾いた寝息を立てて眠る女の首筋に、いくつもの穴が空いているのを見つけた。 何気なく指で一つの穴を塞いでみると、女の寝息の音色が少し変わった。エキゾチックな感じの不思議な音色で、聞いていると体中の…

チョコレートで出来た友達が

チョコレートで出来た友達が軒下で夜を待っている夕暮時野鼠に齧られた鼻の頭を気にしながら君は、チカチカ光りはじめたエッチなお店のネオンを見つめている。 * チョコレートで出来た友達が夜を待ちながら軒下で歌を口ずさんでいる夕暮時君の喉の奥に居座…

舞台用台本「ドーン」

(爆撃の音や銃声が聞こえる。)(舞台の下手、「怪獣」の姿が浮かび上がる。)(白いワンピースを着た華奢な少女。)(「怪獣」は周りの砲撃の音に耳を塞ぎ、目を強く瞑る。)(高まる砲撃の音。)(「怪獣」はやがて胸を押さえその場に崩れるようにして倒…

さんぽ道

盗まれた花や人形たちが、さんぽ道を縁取るように立ち尽くしている。縫い目のほどけたサルやクマたちは二階の窓に腰かけ、囁くように彼女たちを罵っている。 * 森をつらぬくさんぽ道は、毛糸の髪の毛を朝露で湿らし、燃えるような夕焼けの赤は、フェルト地…

good morning, good morning

明け方頃の町の空に、大きな子どもが寝そべって、眠たげな顔で面倒くさそうに、傍らに置いた藤の籠から、スズメを一掴み二掴み、町の電線にばら撒いていた。 スズメたちはどれも標本みたいに、ピクリとも動かなかったが、電線にばら撒かれた彼ら彼女らは、上…

ロボットと人間

青のロボットは海底で骨だけになり、魚たちの棲み処である空っぽの頭で、 さざなみの下日々、路傍に打ち捨てられた恋人のことを思い出している。 赤のロボットはバラバラになり、爽やかな風の吹くゴミ捨て場で、 桜の花びらに埋もれながら、六個の瞳で見つめ…

舞台用台本「夏のコント」

(夏。夕方。非常に暑い午後の空気が少し落ち着いてきた頃。アパートの一室。)(窓にぶら下がった風鈴、中途半端に育ったハーブの鉢植え、化粧品や小物が雑多に置かれたガラスのテーブル……等に囲まれて、一人の若い女(女1)が壁にもたれて、文庫本を読んで…

男の手紙が手錠になり、男の声が格子になり、台所の隅で男に抱かれながら、女は雨の朝の卵を茹でている。 * (私の細い肩が、ほどけた髪が、ぼやけた影となり、町外れの川のせせらぎにほつれている。) * 女の窓は男の眼差しだけで、女の世界は男の背中だ…

for no one

家の裏の小川で、叔母さんが苺を洗っている。 叔母さんの四本の腕が、叔母さんのお気に入りのグリーンのセーターとともに、小刻みに動いている。 叔母さんは三本の腕を使って苺を洗い、残りの一本でほつれた髪をかきあげる。 叔母さんの綺麗な顔は、僕の掌に…

Here Comes The Sun ver.2

「作業場」の上に広がる夜空に、金具を動かす乾いた音が響いている。 鉄くさい僕の指には、流れ星を動かす金具が握られている。 誰かが金具で動かしている夜霧が、ひんやりと肌に心地良い。 僕は夜空を見上げ、金具から手を離す。金具は元の位置に戻り始め、…

two of us

リエは凛としてリボンを結ぶ。 リエは凛として荷物を運ぶ。 リエは凛として妹を抱き上げる。 リエは凛として地図を広げる。 リエは寝床で鼻をかみながら、スケッチブックにまだ見ぬあの港町の絵を描く。 * リナは理由なく笑い出す。 リナは理由なく涙をこぼ…

くらげの看護婦さん

真夜中の水族館、くらげの看護婦さんが、水槽の柔らかい砂の上をとことこと歩いていく。 年老いた鮫の腹の音を聞くための聴診器と、絵を描くことが趣味の蟹の子のための点滴のパックと、マンボウのお母さんに飲ませるためのカプセルを詰めた鞄を片手に持って…

影と殺虫剤

病院の待合室でぼーっと座っていたら、壁にかかった私の影の胸の辺りが、少しずつほどけて、壁の中から誰かが出てきました。 怖くて動けなかったので、通りかかった看護婦さんに泣きついたら、影のほどけたところに殺虫剤をかけてくれて、そうしたら影が元に…

Girl

照明が焚かれ、遥の肌があらわれ、遥の鼻があらわれ、遥の歯があらわれ、遥の羽があらわれる。 * (客席はめらめらと燃えている。) * ショーが始まり、遥は舞台をぶらぶら歩いていって、はるかの果てに腰を降ろす。 * (客席はしんと静まり返っている。…

抜け殻

部屋の隅に抜け殻を残して、恋人が去ってしまった。 * カサカサの恋人の抜け殻を、そっと壁に立てかけた。 * 夜までぼんやりと空を眺め、爪を切り、そうしたらもうすることがなくなったので、一人布団に潜り、抜け殻を眺めながら眠ることにした。 * 抜け…

酔いと呪い

そいつが死んだ時、一番の下っ端だった俺の耳の穴の中に、そいつの死体を埋めることになった。 アル中だったそいつは、死体になっても酒瓶を握りしめて離さなかったので、仕方なくそのまま埋めたのだが、それ以来寝返りをうつたびに、瓶に残った酒が俺の頭の…

Here Comes The Sun

金具を回す乾いた音が空に響いている。 私が金具から手を離すと、空の雲がゆっくりと動き出す。 去っていく雲を目で追っているうちに、私のまぶたは重くなり、眠気が全身に忍び寄ってくる。 金具を回す乾いた音が遠くで響いている。 金具を回す乾いた音がや…

穴と秘密(fixing a hole)

もしもお薬で治らなかったら、この穴は、お人形の隠れ家にするの。

砂と尾

夕方の動物園で、機械仕掛けの象が、水のみ場の傍に座り込んでいる。 どこからか飛んできた雀が、水のみ場の水を飲んでいる。 機械仕掛けの象は水を飲まない。喉から全身が錆びていってしまうから、水は飲むなと飼育員に厳しく言われているからだ。 機械仕掛…

ホテル

薄着をした女が、ホテルの廊下を歩いている。 女は一つのドアを開ける。 薄暗い照明の下のベッドに、人のかたちをした石が腰かけている。 女は石を抱きしめる。 石が崩れて隙間から枯れた花が顔を覗かせる。 女は丁寧に花を抜き取り、枕の上に横たえる。 女…

雲と飛行機

腐った雲が夏空を流れていく。 石鹸のマークがついた飛行機が、それを追いかけていく。 そして団地のお母さんたちが一斉にベランダに出てきて、慌てて洗濯物を取り込む。 腐った雲は夏空をどこまでも流れていく。

星と蛇口

宇宙服を着たツアーガイドの女が、目の前を漂うビーチボールくらいの惑星を掴み、蛇口を取り付ける。 宇宙服を着た私たちが、コップをあてがい、栓をひねると、綺麗な青の液体が注がれる。 星の生き物たちが干からびて死んでいくのを眺めながら、ちびちびと…

流し台と人魚

台所にゴキブリが出たのでそれのための罠を組み立てていると、流し台の方から何やらゴボゴボと音がしたので、そっちに目をやると、水を溜めた洗い桶の縁に小さな人魚が腰かけていた。人魚はゴキブリの罠を組み立てる私を見てくすくす笑ったかと思うと、高い…

早朝、寝室の窓をコツコツと叩く音で目が覚めた。 カーテンを開けると、塩の小瓶がふわふわと浮かびながら窓を叩いていた。 しばらくじっと見つめていたら、塩の小瓶はふいに回れ右をし、庭先で遊ぶ雀たちに塩をふりかけたりして、ちょっかいを出し始めたの…

歯型

朝起きると二の腕に歯型がついていた。 寝ている間に自分で噛んでしまったらしい。 何だかよくわからないが、とりあえずいつものように洗面台の前に立ち、顔を洗っていると、頭の上から「痛いから噛まないでください」という声が聞こえてきた。 恐る恐る顔を…

雨と新品

突然降り出した雨の中、家路を駆けていく。 雨漏りの音が頭の中に響いてうるさい。 昨日市場で安く買った頭だから、どこかうまく繋がっていないのかもしれない。 前まで使っていた頭は上司の子どもに譲ってしまった。 昔誕生日に親が買ってくれた良い頭だっ…

氷を踏んで足を切った。 三日前まで飼い猫だった氷の塊の表面を生ぬるい血が流れていく。 今朝は少し眠りすぎた。 今日の層に、もううっすらと霜が降りている。