超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

飼育委員

小学校で飼育委員だった少年が、卒業の日、飼育小屋に火をつけた。

お守り

恋愛成就のお守りの中に、記憶をリセットする薬が入っていた。

煙草

段ボールハウスの内壁に書かれた「禁煙」の文字の前で、ホームレスが木の枝を煙草大に折っている。

風船

子どもたちに風船をとりつけられた小鳥の死骸が、ゆっくりと空に昇っていく。

こちら

レストランの料理長が調理前にやってきて、「こちら、前世は盗癖のあった女です」と、豚肉の塊を見せてくる。

あくび

政府による今日のあくびの制限は三回なので、夜寝る時と会社の昼休みと、あと一回はいつにしよう。

処刑が行われたばかりの処刑場はなぜか涼しいので、夏に処刑が行われると、僕たち子どもは喜んだものだった。

中年のスーツの男が、快晴の青空の下、公衆電話で誰かに「こっちも雨が降ってるよ」と言っている。

火葬場に組まれたクイズ番組のセットの中で、解答者たちがボタンに手をかけながら、煙突から煙が出るのをじっと待っている。

おばあちゃんは年だから、夕飯は惑星一個で充分だよ。

効能

「効能」の札に「殺意」と書かれている温泉に通じる脱衣所に、包丁の忘れ物があった。

追跡

息子が死んだ時に発行された追跡番号で、息子の魂を追跡したら、あの世に行く前におもちゃ屋に寄っていた。

ご自由に

病院の前の「ご自由にどうぞ」の手術台が、今日は赤く汚れている。

今年も誕生日に、油性ペン片手に墓地に行ったが、とうとう僕の身長は父の墓石を超えてしまった。

扇風機の葬式の日は、風が強かった。

おしぼり

そのおじさんは、喫茶店のおしぼりで、手だけでなく、顔や、膝の上の頭蓋骨まで拭いていた。

交換

太陽を交換してくれた巨人が、指先を湖に浸して、そっと火傷を治している。

笑う豚

定食屋で豚カツを食っている時、店のテレビに笑う豚が映っていたので、チャンネルを変えたが、今夜はどの番組でも豚が笑っている。

帰宅

帰宅したら、玄関の外で包丁を握りしめて立っていた母が私に、「第一問」と言った。

チリン

その老人は火葬場の前を自転車で通り過ぎる時、誰かが焼かれていると、必ず、チリン、とベルを鳴らす。

じゃんけん

異星から来た、指が千本ある転校生が、一緒に遊ぶ時、じゃんけんに混ざらない。

千羽鶴

ゴミ捨て場に転がっていた千羽鶴の数を数えていたホームレスが、新聞紙で追加の鶴を折り始めた。

物置

物置の奥で、もうしばらく使っていないお母さん交換機が錆びている。

墓地を歩いた後の靴底の溝に小さな骨片が挟まっている。

ニンジン

ニンジンが食べられない男の子が、スーパーでニンジンを万引きして捕まった。

トマト

いつも八百屋の野菜に口紅のキスマークをつけて逃げていくその女は、トマトの赤さを憎んでいる。

タマネギ

理科の授業で涙を使う日、学校に母の遺影を持っていったが、それが急に恥ずかしくなってしまい、結局隣の席の子にタマネギを借りた。

数学者

数学者の妻が、「∞」の記号を載せたベビーカーを押して、保育園の扉を叩いた。

保健所が立入検査をしたところ、その養豚場の豚には、影が無かった。

去年、花粉の時期が終わると同時に旅に出た鼻毛たちが、今年、ついに、俺の鼻に戻ってくる。