トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

蛸の絵

漁港に遊びに行った帰り、蛸を丸ごと一匹買い、生きたまま発泡スチロールの箱に詰めてもらった。 家に帰る車中で、一緒に遊びに行った娘が、バッグに入れておいた色鉛筆をなくしたと騒ぎ出したので、途中文房具屋に寄って新しい色鉛筆を買っていった。 家に…

猫の粒

飼いはじめたばかりの猫が逃げてしまった。 猫の粒を水で戻す時に、水の分量を適当に量ってしまったせいだろう。 もったいないことをした。 猫の粒、高かったのに。 「本物に近い」ってやつ買ったから。 本物知らないけど。

副業

彼女の大きなおっぱいに顔を埋めると、左のおっぱいから誰かの話し声がぼそぼそと聞こえてきた。「ごめんね、左も貸しちゃった」「……」「優しそうなおばあちゃんだったから……」 彼女のおっぱいだから俺がどうこう言えることじゃないけど、出来ればこんな副業…

笑う剥製

夫に浮気がバレそうな予感がしてきたので、面倒なことになる前に浮気相手を剥製にして、クローゼットの奥に隠すことにした。 表情やポーズは私が好きに決めていいと彼が言ってくれたので、彼の笑顔が好きだから剥製も笑顔にしてみたのだが、最近そのことをち…

先生のお話

夏休みだからといってだらしない生活をしてはいけませんよ。 神様に捧げられる人以外は夜更かしはやめましょうね。 ではまた休み明けに!

ミッシェル

ベッドの上の俺を優しく力強く締め上げながら、ナースキャップをかぶったその大蛇は、しなやかな尾の先でそっと病室の電気を消した。 ブラインドの隙間から差し込む月の光を受けて、闇の中に美しい牙が浮かんでいる。「ちょっとチクッとしますよ」 大蛇はハ…

急ぎ足

(夜中の2時頃。とある交差点。信号が赤に変わり、そこへ一台の車がやってきて止まる。)(運転手がぼんやり信号を待っているところへ、目の前の歩行者用信号が青に変わり、女の生首がゆっくりと横断歩道を渡っていく。) ……あいつ、ここのところ毎晩見るな…

今昔物語

押入れの奥から出てきたスケッチブックに、小さな掌のスケッチが描かれていた。 確か当時小学生だった私が、自分の掌を見て描いたものだ。 懐かしい気持ちで眺めていると、突然掌がスケッチブックからにゅっと飛び出てきて、私のおっぱいをわしづかみにして…

保護者の皆様へ

小さい子の手が届く場所にハサミを放置しておいてはいけないとつくづく思い知った。 昨日の夜、夕飯の片づけをしていたら、3歳になる娘が工作用のハサミを持ってベランダに出ていった。 何か嫌な予感がして慌てて追いかけると、夜空に浮かぶ月がウサギさんの…

ハードボイルド

将来を誓い合ったミミズに別れを告げる間もなく、ジャガイモは畑から掘り出され、鍋に放り込まれた。 これでいいのさ。 どのみち俺じゃあ、あの子を幸せにはしてやれない。 鍋の外では、新婚の奥さんがエプロン姿のまま、帰宅した夫の首に抱きついている。 …

蝶を逃がす

今朝も悲しい夢で目が覚めた。 深くため息をつき、認めたくなかった言葉を心の中でつぶやく。 やっぱり私たちは合わないみたいだ。 パジャマを脱ぎ、胸を開き、心臓のファスナーを開けると、白く美しい蝶がのろのろと這い出てきた。 何か言いたいのに何も浮…

不合格

休日をほぼ丸々使って完成させた犬小屋だったが、愛犬は舌打ちとともに小屋を一瞥し、チェーンソーをくわえて近くの森の中へ消えていった。

日焼け

海辺の町の小さな児童公園で、地元の子どもたちに混じって、真っ黒に日焼けしたミロのヴィーナスの両腕がトンボ捕りに興じている。 いやぁ、楽しそうで何よりだ。 * 両腕は突然この町に現れた。 漁船の網に引っかかったのか、のんびりと海流に乗ってここま…

掌編集・十七「震え、抵抗、魔女と線香花火」

【一.震え】 お母さんが夕飯の支度をしている台所から、包丁をまな板に叩きつける音とともに、短い悲鳴のようなものが聞こえてきた。 あれはやっぱり見間違いじゃなかったんだ。 スーパーから帰ってきたお母さんが手に提げていたビニール袋の中で、何かが手…

相合傘

「私、相合傘で帰るから」とニコニコ笑いながら、彼女はもう何十年も校舎裏に立ち続けている。

掌編集・十六「やさしさ、窓と卵、雨と野良猫」

【一.やさしさ】 シャンプーを洗い流そうとシャワーの栓をひねったが、お湯が出ている音はするのに、お湯が頭に当たっている感じがしない。 そっと目を開けると、誰かが私の頭上で傘をさしていた。 【二.窓と卵】 昨日買った卵の一つに、小さな窓がついて…

栓と鮫

年のせいなのか疲れのせいなのか、どうもどこかの栓がゆるくなっているらしい。 最近、しょっちゅう夢が外にはみ出す。 この間も、電車のつり革を握ったまま立ち寝してしまっていたところ、突然駅員に恐ろしい声でたたき起こされた。 びっくりして顔を上げる…

掌編集・十五「象は賢い動物です、櫛、骨め」

【一.象は賢い動物です】 象は賢い動物です。 たとえばあの象を見てください。 長い鼻でペンチを器用に操って、壊れた飼育員を自分で修理していますね。 本当は飼育員がいなくても生きていけるのですが、飼育員の家族が泣いているのを見て修理することにし…

鍋とぷにぷに

昨日のカレーの残りを朝ごはんに食べようと鍋の蓋を開けると、何か真ん中に深いくぼみのある、白くてぷにぷにしたパンのような物が鍋にぎっちり詰まっていた。 それがヘソと腹だと気づくまでにしばらく時間がかかった。

掌編集・十四「入れ食い、きっかけ、転校生と綿」

【一.入れ食い】 ご覧になりましたか、あの列車。 すっかり齧り尽くされていましたね。 あの山にトンネルを掘ったのがそもそもの間違いだったんですよ。 私のおばあちゃんが言ってましたもん。 アレはいつも腹を空かせているんだって。 【二.きっかけ】 呑…

パオパオ

休園日の動物園の象舎を点検しに行くと、象がパオパオ笑いながら踊り回っていた。 やめろと言っても聞こえていないようだったので、持っていた竹箒で頭を引っぱたいて無理矢理黙らせた。 後で他の飼育員に聞いたら、象の中の奴ら、休園日だからって朝から酒…

掌編集・十三「煙突、口が痛い、虎と下着」

【一.煙突】 友達と遊んだ帰り道、ふと何か嫌な気配を感じて後ろを振り返ると、近所の工場の煙突に大きな喉仏がくっついていて、夕焼け空を飛ぶ鳥の群れをごくごくと飲み込んでいた。 【二.口が痛い】 口の中が痛くて目が覚めた。 どうも口内炎や虫歯とい…

掌編集・十二:壁、十二時、クミコ

【一.壁】 日曜日の昼下がり、4歳になる息子が庭に出て、にこにこ笑いながら家の壁にホースで水をぶちまけていた。 いたずらしちゃダメでしょ、とホースを取り上げると、息子は困ったような顔をしてあっさり引き下がった。 次の日の朝、庭に出て洗濯物を干…

いい雨

蛙が口笛を吹いている。 今日はいい雨が降っているらしい。

縁側でスイカを食べていた時、庭にプッと種を吐き出したら、地面に華麗に着地して、そのままスタスタと歩き去っていった。

ママと涙

この前、妹が生まれた。 パパはとても喜んでいる。 パパは知らないみたいだ。 この子はパパとママの子どもじゃない。 ママが浮気していたのを私は知っている。 ずいぶん前から、ママの様子が変だった。 家事は全部済んだはずなのに、何かしら理由をつけて夜…

月と雨

昨日の夜は一晩中大雨が降っていたが、今朝は気持ちよくカラッと晴れた。 清々しい気分でテレビを点けると、ちょうど天気予報が流れていた。「今夜はキレイな満月が見られるでしょう」 その日の仕事帰り、家路を急ぎつつふと空を見上げると、なるほど確かに…

西日

窓から差し込む西日を何気なく指でつまんだら、案外あっさり剥がれてしまった。 窓の形に剥がれた西日をひらひらさせながら、何か良い使い道はないかとあれこれ考えてみたが、俺の頭では何も思いつかなかった。 一瞬、そういえばトイレットペーパーが切れか…

冷たい風船

冷蔵庫の扉を開けた瞬間、飛び出てきた風船に鼻の頭を小突かれた。 昨日買ってきた手首がどうしても離そうとしなかったので、仕方なくそのまま入れたのだった。 邪魔くさいなぁとは思うが、この風船が萎みきってしまう頃には手首も使い物にならなくなってい…

ある夜、交差点で信号待ちをしていたら、車のボンネットに何かが落ちてきた。 車を降りて拾い上げてみるとそれは流れ星で、表面に苔のようなカビのようなものが薄くびっしりとくっついている。 どうやら色々な人の願い事を背負いすぎ、その重みで落ちてきて…

アラーム

母のアラームランプが点滅している。 思い切って「お袋」と呼んでみたのだが、どうやらまだ早かったようだ。

暑中見舞い

昔の友人から突然暑中見舞いのハガキが届いた。 消印は「海の底」で、スタンプはタコの吸盤だった。 昔から住み家も仕事もふらふら定まらない風来坊だったが、額からちっちゃな提灯が生えた可愛い赤ん坊を抱いているこの写真を見る限り、ようやくあいつも落…

夜のト書き

最初のまばたきの間に部屋の蛍光灯が切れ、 次のまばたきの間にドアが開き、 さいごのまばたきを終えた瞬間、後ろから何かに肩を叩かれる。

めし

めしめし、と鳴く猫を背に、女が台所に立ち尽くしている。 何気なく手をかけた冷蔵庫の中から、人の気配がするのだ。 いつもの肉屋に寄ればよかったのに。

痕跡と目撃者

ホットケーキを焼き上げて皿に載せ、テーブルに置いたところで、ハチミツを切らしていることを思い出した。 何かかわりになる物ないかな、と冷蔵庫の中を覗いていた時、背中の方で何かがピカッと光った。 咄嗟に振り向いたが何もいない。 外の天気も台所の蛍…

雲と歯型

墓の上の空に浮かぶ大きな雲が、細かい歯型とともに小さくなっていく。 墓の下で眠る娘がまたお腹をすかせているらしい。

増築

大人になって自分の家を持った。 金が貯まるたびに、家を上へ上へと増築していった。 夜空の星を少しでも近くで見てみたかったのだ。 ある時ふと気がついた。 星に近づくたびに、接着剤のにおいが強くなっていく。

朝、駅に行くと、3番線に巨大な繭が横たわっていた。 いつもの列車が蝶になろうとしているようだ。 奇妙な静けさの中、4番線にやってきた列車が、いつもの面子を飲み込んだあと、ため息をつきながら扉を閉めた。

刈り

近頃、月が欠けていくスピードが何だか速いなぁ、とは思っていたが、今日スーパーに買い物に行くと、「月」と書かれたラベルが貼られた缶詰が山積みになっていた。

ヌード

裏通りで何だか晴れ晴れとした様子のガイコツとすれ違った。 ガイコツのやってきた方へ歩いていくと、女の髪や皮や指輪が無造作に突っ込まれたゴミ箱を前に、コンビニのアルバイトが呆然としていた。

凪(母)

夏休みのある日、縁側で昼寝をしていた。 一時間くらい経った頃、家の中が急に蒸し暑くなったような気がしてふと目が覚めた。 水を飲もうと台所に行くと、お母さんが風鈴を食べていた。

海と化石

最近、浴槽の水を取り替えようと蓋を開けると、すっかり冷めたお湯の中を魚の背びれがうろちょろしていることが時々ある。 このまま栓を抜いて排水管に詰まっても嫌なので浴槽の中をよく調べてみても、何もいない。 水族館で働く夫に訊いてみると、ちょっと…

影と休日

人込みの中を一日歩いて帰ってきたら、私の影に細かい傷がたくさんついていた。 休日の街を、みんな笑いながら、手をつないだりして、楽しそうに歩いていたのに、本当はどんな気持ちで歩いていたのだろう。

イミテーションゴールド

脚の間から浮気相手がひょいと顔を覗かせ、「ここに蝶のりんぷんがついてますよ」と言った。 夜の間に家の誰かが標本のピンを抜いたのだろう。「舐めたら風邪ひくわよ」と答えると、浮気相手がおじいさんみたいな声で笑った。

星と塩素(改訂)

生徒が帰った後の夜のプールを片づけていたら、突然水面に何かがバシャンと落ちてきた。 おそるおそる近づいてみると、何だか丸くて、柔らかく光っている。 根拠はないが危ないものという感じはしなかった。拾い上げてみるとほんのり温かかった。 一体これは…

スタンド・バイ・ミー

俺がバイトするコンビニに深夜、オモチャのロボットが酒を買いに来た。 自分の背丈ほどもある缶ビールを抱えて出ていく足音が、カチャカチャと物悲しかった。 街はもう3月だ。 オモチャのロボットにも酔わなきゃやってられないような別れがあるのだろう。

月と夜空(改訂)

夜の屋台でかけ蕎麦を手繰っていたら、つゆに満月が映っているのに気が付いた。 月見そばか、と心の中で冗談を言いながらつゆをすすると、月が前歯にこつりとぶつかった。 思ったより腹の足しにはなったが、夜空は真っ暗になってしまった。

生きものの記録

のぼり坂を機嫌よく歩いていたら、それまで吹いていた心地の良い風がとつぜん凪いでしまった。 お母さんから渡された買い物のメモを握りしめたまま、不安になって立ち止まる。 耳を澄ますと、坂の上の丘の向こうから、ペンを動かす音が響いてきた。 どうやら…

ニューヨークニューヨーク

真昼間の波止場で、腹から血を流して倒れている男 目をいっぱいに見開いて、天高く輝くアレが、おっぱいなのか太陽なのか確かめようとしている。 さようなら。

めまい

自転車のかごに神様の首を入れて、少年が山道を駆け下りていく。 少年の火照った胸にまとわりつく汗を、夏の風が心地よく舐めていく。 上級生たちの驚く顔を想像して、少年は上機嫌だ。 少年の家では、まだ幼い彼の妹のおっぱいが、突然かたく張り出していた…