トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

同じレンジ

新しいゲームを買ってもらったので、休日の朝から、近所の××君の家に行った。インターフォンを鳴らすと、××君のお母さんが出てきた。「××君お願いします」「すぐに用意するから待っててね」通された居間でジュースを飲んでいると、電子レンジのあたため終了…

マイ・ウェイ

解体工事が行われていた病院の一室から、一羽の小鳥が見つかった。それは入院患者が見ていた夢の中に現れたあと、うっかり外へ出てしまった小鳥らしく、羽根の色も、翼やくちばしの位置も、目玉の数すらちぐはぐで、素晴らしく美しいバリトンの声でシナトラ…

ちゅうい

ああ、この家か。 伝票に書かれた住所を見て、思わずため息がこぼれる。 いやなんだよな、この家に配達に行くの。 なんなんだよ、玄関のあの張り紙。「元人間にちゅうい」って。

ずいぶん小さくなって

よろけた足取りで、音楽室のピアノの鍵盤の上を誰かが歩いている。あれは去年亡くなった音楽の先生だ。ずいぶん小さくなって。 酔っているらしい。寡黙でおとなしかった面影はどこへやら、どこかの方言で、猥褻な歌を高らかに歌い上げながら、鍵盤をめちゃく…

近い

首吊りに使われた街灯が、その日を境にどんどん猫背になりつつある。まぁ、気持ちはわかるけど、そんなに落ち込むなよ。近いよ。眩しいよ。

影、ふとん

夕方、ベランダに干していた布団をとりこもうとしたとき、布団に、小さな女の子の影がしがみついているのを見つけた。私が住んでいる家は、すぐそばに墓地があるので、時々こういうことが起きるのだ。干したての布団の魅力に、吸い寄せられてくるのかもしれ…

学校の焼却炉の煙突が、桃色の煙を吐き出していた。 誰かがラブレターを投げ込んだのだろう。 それにしても今日の煙は、色といい、量といい……。 読みたかったな。

ある小さな町の、真夜中の踏切に、おーん、おーん、と穏やかな音が響いている。警報機が、昼間と違うものを迎えるための合図を送っているのだ。遮断機がゆっくり下りてきて、同時に、素晴らしく美しい青色のライトが点滅する。しばらくすると、そこへクジラ…

ぷわり

咳をするたび、耳から、しゃぼん玉が、ぷわりととびだす。 さすが、新しい病院の、新しい薬だ。気が、利いている。 咳をするたび、耳から、しゃぼん玉が、ぷわりととびだす。 虹色をぎらつかせながら、病院の天井に、次々と弾けて、消える。 咳をするたび、…

不倫

リボン、包装紙、テープ、緩衝材、をぽとりぽとり落としながら、新しい月が、夜空にゆっくり現れた。ぴかぴかのまっさらな月だ。生まれたての赤ん坊のお尻のようにも、知恵がたくさん詰まったおじいさんの禿頭のようにも見える。いつもより明るい月夜だ。誰…

犬と爺さん

からだじゅうに、コードや、ネジや、アンテナや、ちかちか光るランプをくっつけた、ほとんど骨ばかりの犬が、これまたほとんど骨ばかりの爺さんが弱々しく投げたフリスビーを、三十分かけて、くわえて戻ってきた。夕暮れの、さびれた公園での話だ。 本当は会…

こっぷ

くすりをのむのにつかったこっぷが、こいのぼりみたいなおおきなくちで、びょうきがなおったらぴくにっくにつれていってください、といったので、どこへいきたいの、とたずねると、こっぷは、やわらかいつちのうえなら、どこでも、とこたえた。おもいきりこ…

乾杯

耳をつんざくような「乾杯!」 の声がきこえたつぎの瞬間、ぼくたちは宇宙にほうりだされていた。 ふりかえると、地球のまわりの大小さまざまな星々が、地球めがけてぶつかってきたらしく、その衝撃でぼくらは宇宙にほうりだされたのだということがわかった…

点滴袋をぶらさげたキャスターつきの器具をがらごろいわせながら、流れ星が夜空をよろよろ駆けていった。ずいぶん、願われてしまっているようだ。そばかすのことはあきらめることにした。

しるし

おかえりなさい あれ? ねこでもひいた? かげが すごくつめたいよ

蛸、あじはしらない

まいにち、ゆうぐれどきに、みせのまどのまえをとおるおんなのこが、てをふっていたあいては、おれではなく、いけすのなかの蛸だった。蛸のやろう、さいきん、ゆうぐれどきにやたらあかいから、よくしらべたら、そういうことだった。あるよる、蛸のにぎりを…

再開

押入を整理していたら、古いトランプが出てきた。昔はこれでよく遊んだものだ。懐かしい気分になり、カードを箱から取り出して何となく切っていると、一枚のカードが手の中からぴょんと飛び出してゴミ箱に飛び込んでしまった。そんなに激しい切り方したかな…

好き嫌い

あなたの部屋の上の部屋で男が殺されたんです。若い警察官はそう言った。 けれど死体が見つからないんです何か知りませんか。若い警察官はそうぼやいた。 さあ。 そうですか。 それから一週間ほど経った頃、私の部屋の天井に、その殺されたという男らしい顔…

無題

あしが たつのを こばんでるときが たつのを こばんでるあしたも いいこと なにもないあしが あしたを こばんでる こころが おれを こばんでるぽっきり おれて もどらないここには いいこと なにもないこころが ここを こばんでる

母ちゃん。 あの雪だるま、いつまで経っても、溶けないね。 ××ちゃん。 お坊さん呼んできて。

三番線

ゴシック体の列車が、三番線に滑り込んできた。これに乗れば約束の時間までかなり余裕で目的地に着くことができるが、何しろゴシック体の列車はシートがかたくてお尻が痛くなるからなぁ。一本遅らせて、この後の明朝体の列車を待とう。明朝体は明朝体で、網…

涼しい風

気がつくと、消しゴムくらいの大きさになっていた。 窓辺に腰かけて、口笛をふいていた。 蝶が一匹、目の前を通り過ぎていった。 真っ白な羽が優雅に動くたび、全身にすずしい風を感じた。 * 気がつくと、電信柱くらいの大きさになっていた。 公園の真ん中…

イエローサブマリン

海にぷかりと浮かんで、ぼんやりと太陽を眺めていたはずだったのが、気がつくと俺のへそからは潜望鏡が生えていて、わき腹には丸い窓がいくつも取り付けられており、そこに集まって目を輝かせている子どもたちと、骨を伝わって聞こえてくる彼らの笑い声、ご…

おたま

夜空の星を眺めていたら とつぜん巨大なおたまが現れ ひときわよく光っていた一つの星を すっとすくい上げてそのまま暗闇へ消えていった 食べ頃だったからなのか それとも煮えすぎだったからなのか 理由はわからない だがせめて 前者であってほしいと思う そ…

逆上がり

廃校が決まった小学校の、真夜中の校庭で、古ぼけた人体模型が、逆上がりの練習をしている。邪魔にならないようにと傍らに並べられたプラスチックの臓物が、月明かりに照らされておかしな形の影を伸ばしている。人体模型はぎゅっと鉄棒を掴む。インクで描か…

勇気

朝起きて洗面所の鏡を覗くと、耳から毛のようなものがちょろっとはみ出していた。俺もいよいよジジイだな、と悲しくなりつつ引っ張ってみると、それは、細くよじれた文字の塊だった。「保険」「お義母さん」「世間」「左目」「スイッチを直して」 そんな言葉…

深夜バイトの帰りに、夜明け前の薄暗い商店街を歩いていたら、暗がりから妙な音が聞こえてきた。音の方へ目をこらすと、随分前に夜逃げした洋服店のショーウィンドウの中で、カラス?の群れが、マネキン?の腹?をくちばし?で破り、肉?を食って?いた。「…

怪盗

コンビニでおにぎりを買って一口かじったら、おかかが入っているはずのスペースに、薔薇の花びらが入っていた。コンビニに戻って事情を説明すると、「たまにおにぎりの具だけを盗んでいく怪盗が現れるんですよ」とのことで、新しいおにぎりと交換してもらっ…

そっち

ああ、満月って、ドアノブだったんだ。 あ、どうも、こんばんは。 あっ、そっちからだと、こんにちは、か?

、と。

庭の柿の木から実を一つもぎり、切り分けていると、本来なら種のあるべき場所に、種ではなく、丸いドーナツみたいなものが埋めこまれていた。五分くらい考えて、そのドーナツみたいなものが、句点であることに気がついた。するとどうやら、今まで種だと思っ…