トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。だいたい土曜日更新。

パオパオ

休園日の動物園の象舎を点検しに行くと、象がパオパオ笑いながら踊り回っていた。 やめろと言っても聞こえていないようだったので、持っていた竹箒で頭を引っぱたいて無理矢理黙らせた。 後で他の飼育員に聞いたら、象の中の奴ら、休園日だからって朝から酒…

掌編集・十三「煙突、口が痛い、虎と下着」

【一.煙突】 友達と遊んだ帰り道、ふと何か嫌な気配を感じて後ろを振り返ると、近所の工場の煙突に大きな喉仏がくっついていて、夕焼け空を飛ぶ鳥の群れをごくごくと飲み込んでいた。 【二.口が痛い】 口の中が痛くて目が覚めた。 どうも口内炎や虫歯とい…

掌編集・十二:壁、十二時、クミコ

【一.壁】 日曜日の昼下がり、4歳になる息子が庭に出て、にこにこ笑いながら家の壁にホースで水をぶちまけていた。 いたずらしちゃダメでしょ、とホースを取り上げると、息子は困ったような顔をしてあっさり引き下がった。 次の日の朝、庭に出て洗濯物を干…

いい雨

蛙が口笛を吹いている。 今日はいい雨が降っているらしい。

縁側でスイカを食べていた時、庭にプッと種を吐き出したら、地面に華麗に着地して、そのままスタスタと歩き去っていった。

ママと涙

この前、妹が生まれた。 パパはとても喜んでいる。 パパは知らないみたいだ。 この子はパパとママの子どもじゃない。 ママが浮気していたのを私は知っている。 ずいぶん前から、ママの様子が変だった。 家事は全部済んだはずなのに、何かしら理由をつけて夜…

月と雨

昨日の夜は一晩中大雨が降っていたが、今朝は気持ちよくカラッと晴れた。 清々しい気分でテレビを点けると、ちょうど天気予報が流れていた。「今夜はキレイな満月が見られるでしょう」 その日の仕事帰り、家路を急ぎつつふと空を見上げると、なるほど確かに…

西日

窓から差し込む西日を何気なく指でつまんだら、案外あっさり剥がれてしまった。 窓の形に剥がれた西日をひらひらさせながら、何か良い使い道はないかとあれこれ考えてみたが、俺の頭では何も思いつかなかった。 一瞬、そういえばトイレットペーパーが切れか…

冷たい風船

冷蔵庫の扉を開けた瞬間、飛び出てきた風船に鼻の頭を小突かれた。 昨日買ってきた手首がどうしても離そうとしなかったので、仕方なくそのまま入れたのだった。 邪魔くさいなぁとは思うが、この風船が萎みきってしまう頃には手首も使い物にならなくなってい…

ある夜、交差点で信号待ちをしていたら、車のボンネットに何かが落ちてきた。 車を降りて拾い上げてみるとそれは流れ星で、表面に苔のようなカビのようなものが薄くびっしりとくっついている。 どうやら色々な人の願い事を背負いすぎ、その重みで落ちてきて…

アラーム

母のアラームランプが点滅している。 思い切って「お袋」と呼んでみたのだが、どうやらまだ早かったようだ。

暑中見舞い

昔の友人から突然暑中見舞いのハガキが届いた。 消印は「海の底」で、スタンプはタコの吸盤だった。 昔から住み家も仕事もふらふら定まらない風来坊だったが、額からちっちゃな提灯が生えた可愛い赤ん坊を抱いているこの写真を見る限り、ようやくあいつも落…

夜のト書き

最初のまばたきの間に部屋の蛍光灯が切れ、 次のまばたきの間にドアが開き、 さいごのまばたきを終えた瞬間、後ろから何かに肩を叩かれる。

めし

めしめし、と鳴く猫を背に、女が台所に立ち尽くしている。 何気なく手をかけた冷蔵庫の中から、人の気配がするのだ。 いつもの肉屋に寄ればよかったのに。

痕跡と目撃者

ホットケーキを焼き上げて皿に載せ、テーブルに置いたところで、ハチミツを切らしていることを思い出した。 何かかわりになる物ないかな、と冷蔵庫の中を覗いていた時、背中の方で何かがピカッと光った。 咄嗟に振り向いたが何もいない。 外の天気も台所の蛍…

雲と歯型

墓の上の空に浮かぶ大きな雲が、細かい歯型とともに小さくなっていく。 墓の下で眠る娘がまたお腹をすかせているらしい。

増築

大人になって自分の家を持った。 金が貯まるたびに、家を上へ上へと増築していった。 夜空の星を少しでも近くで見てみたかったのだ。 ある時ふと気がついた。 星に近づくたびに、接着剤のにおいが強くなっていく。

朝、駅に行くと、3番線に巨大な繭が横たわっていた。 いつもの列車が蝶になろうとしているようだ。 奇妙な静けさの中、4番線にやってきた列車が、いつもの面子を飲み込んだあと、ため息をつきながら扉を閉めた。

刈り

近頃、月が欠けていくスピードが何だか速いなぁ、とは思っていたが、今日スーパーに買い物に行くと、「月」と書かれたラベルが貼られた缶詰が山積みになっていた。

ヌード

裏通りで何だか晴れ晴れとした様子のガイコツとすれ違った。 ガイコツのやってきた方へ歩いていくと、女の髪や皮や指輪が無造作に突っ込まれたゴミ箱を前に、コンビニのアルバイトが呆然としていた。

凪(母)

夏休みのある日、縁側で昼寝をしていた。 一時間くらい経った頃、家の中が急に蒸し暑くなったような気がしてふと目が覚めた。 水を飲もうと台所に行くと、お母さんが風鈴を食べていた。

海と化石

最近、浴槽の水を取り替えようと蓋を開けると、すっかり冷めたお湯の中を魚の背びれがうろちょろしていることが時々ある。 このまま栓を抜いて排水管に詰まっても嫌なので浴槽の中をよく調べてみても、何もいない。 水族館で働く夫に訊いてみると、ちょっと…

影と休日

人込みの中を一日歩いて帰ってきたら、私の影に細かい傷がたくさんついていた。 休日の街を、みんな笑いながら、手をつないだりして、楽しそうに歩いていたのに、本当はどんな気持ちで歩いていたのだろう。

イミテーションゴールド

脚の間から浮気相手がひょいと顔を覗かせ、「ここに蝶のりんぷんがついてますよ」と言った。 夜の間に家の誰かが標本のピンを抜いたのだろう。「舐めたら風邪ひくわよ」と答えると、浮気相手がおじいさんみたいな声で笑った。

星と塩素(改訂)

生徒が帰った後の夜のプールを片づけていたら、突然水面に何かがバシャンと落ちてきた。 おそるおそる近づいてみると、何だか丸くて、柔らかく光っている。 根拠はないが危ないものという感じはしなかった。拾い上げてみるとほんのり温かかった。 一体これは…

スタンド・バイ・ミー

俺がバイトするコンビニに深夜、オモチャのロボットが酒を買いに来た。 自分の背丈ほどもある缶ビールを抱えて出ていく足音が、カチャカチャと物悲しかった。 街はもう3月だ。 オモチャのロボットにも酔わなきゃやってられないような別れがあるのだろう。

月と夜空(改訂)

夜の屋台でかけ蕎麦を手繰っていたら、つゆに満月が映っているのに気が付いた。 月見そばか、と心の中で冗談を言いながらつゆをすすると、月が前歯にこつりとぶつかった。 思ったより腹の足しにはなったが、夜空は真っ暗になってしまった。

生きものの記録

のぼり坂を機嫌よく歩いていたら、それまで吹いていた心地の良い風がとつぜん凪いでしまった。 お母さんから渡された買い物のメモを握りしめたまま、不安になって立ち止まる。 耳を澄ますと、坂の上の丘の向こうから、ペンを動かす音が響いてきた。 どうやら…

ニューヨークニューヨーク

真昼間の波止場で、腹から血を流して倒れている男 目をいっぱいに見開いて、天高く輝くアレが、おっぱいなのか太陽なのか確かめようとしている。 さようなら。

めまい

自転車のかごに神様の首を入れて、少年が山道を駆け下りていく。 少年の火照った胸にまとわりつく汗を、夏の風が心地よく舐めていく。 上級生たちの驚く顔を想像して、少年は上機嫌だ。 少年の家では、まだ幼い彼の妹のおっぱいが、突然かたく張り出していた…

鈴と金魚

誰かが池に落とした鈴を飲み込んだ金魚が、縁日の屋台の桶の中をりんりんと泳ぎ回っている。 鈴の分だけ体が重いから、誰にもこの金魚をすくうことはできない。 祭の灯が消え縁日から人が去る頃、ほとんど空っぽになった桶を片付け、「しかたねえなお前は」…

ファミリーサーカス

私がまだ幼かった頃星を盗んで食べたことがあります 怒ったお月様に追いかけられてよく噛みもせず慌てて飲み込んだもんだから大人になった今でもお腹の中で星は光ったままです だから今まで子どもは何人も出来たけど皆「まぶしい」と言って生まれる前に去っ…

ライクアヴァージン

わざとらしい笑い声が響く団地の片隅で母親がテレビのボリュームを上げた 雲の上でパパが歯磨きしてるという娘のつぶやきをかき消すように

スウィートドリームス

らぶゆーと彼女は囁き私の小指を飲み込んだ。 部屋の外では年老いた見張り番が古い映画の夢を見ている。

月と葡萄

今日が終わり、今日がまた来る。 ふと見上げた夜空には満月がいくつもいくつも浮かんでまるで葡萄の房のようだ。 また少し狭くなったベッドの中で私が私の指に指を絡ませてくる。 また少し明るくなった月明かりから逃れるように私が私の手から毛布を奪う。

月になる

夜中にこっそりベッドを抜け出し、夜空に寝そべり、黄色い毛布をすっぽりかぶり、満月のマネをしてふざけていた姉は、やがて夜の闇に少しずつかじられて、半月になり三日月になり、とうとう跡形もなく消えてしまった。 次の日の朝、病院の人は、誰もいないベ…

ラバーズ

さよなら、愛しているよ。 真っ二つに切られる直前、トマトは確かにそう叫んだ。 べとべとになった手を洗い、冷蔵庫を開けると、レタスときゅうりがほのかに赤く色づいていた。 野菜室の中で何があったか知らないが、今日の夕方こいつらを八百屋で買ったとき…

猫と列車

満員電車に揺られていたら、どこかから猫の鳴き声が聞こえてきた。 乗客がざわざわしながら辺りを見回しているが、どうも私の足元に声の主がいるらしい。 そっと下を見てみると、子猫が2匹、不安そうに私を見上げていた。 白と灰色のまざった子猫が2匹、右の…

公園の藤棚の鳥の巣に、給食のパンをちぎってあげていたら、立派な服を着た人たちが空の上からおりてきて、「巣の中に巣があるわね」と笑いながら僕にパンを投げて寄越した。 僕は力なく笑いながら、パンについた砂を払った。

へそと手紙

弟か妹のつもりで接していた屋根裏のネズミがある日、俺の部屋にお別れを言いに来た。いつものぼさぼさの毛皮ではなく、小さな宇宙服を着て、小さなヘルメットを小脇に抱えていた。 天井を指さすので、天井の板を外し屋根裏を覗くと、小さな通信機の光のチカ…

氷と寝癖

寝ているあなたをそっと氷に閉じ込め、ベッドに乗せて窓に立てかけて、午後の陽を浴びながらサンドウィッチを食べる。 少しずつ溶けていくあなたのところへ、飼い猫がやってきて、喉を潤す。 目覚めたときのあなたの驚いた顔を想像して、思わずにやにやして…

額縁とクラゲ

描かれた海がほどけ、水の色を脱いだクラゲが額縁から逃げ出した。 見つからないように私の家を抜け出し、野良猫の追跡をふりきり、海へ行く列車に乗り込んで、今頃はどこかの勤め人の革靴の上で疲れた体を休めているだろう。 * 残された私は空っぽになった…

星と砂糖

本を閉じて目薬をさし、土曜日の月に腰かけて、生まれ育った町をぼんやりと眺めている。 かじりついたドーナツからこぼれた砂糖の粒が、星のふりをして夜空に降り注ぐ。 生きていた頃と何も変わらない退屈な町が、少しだけ色っぽく見える。 * 背の高いマン…

月とホットケーキ

台所でホットケーキミックスを混ぜていたら、ふいに雨音が途絶えた。朝から降っていた雨が夕方になってようやく止んだらしい。 リビングに行き窓を開けたら、どこからか土のにおいがした。 * たてつけの悪い窓を閉める時、土のにおいに古い思い出を呼び起こ…

にんげんの指にんげんの耳

両目をギョロギョロと動かしながら、じゃあこの問題をナカムラ、と言ってタカハシ先生は乾いた鱗に覆われた指の間からチョークを床に落とし、それを長い舌で拾おうとして、はっと我に返った。 ナカムラさんはそんな先生を意にも介さず、ツカツカと黒板に歩み…

鍋とラード

夕日を遮るたくさんの影の中から、笑い声が聞こえる。 ラジオから流れる夕暮の歌の中で、私はうつむいて立ち尽くしている。 夕日のほとりのドブ川に、すえたワインのにおいが立ち込めている。 ラードで地面に描かれた輪の中で吐き気をこらえる私を見て、チー…

いつも

元の私に着替えてくるから、そこで待ってて、すぐに済むから。 いつものようにそう言って彼女は窓枠に腰かけ、カーテンをさっと引いた。 * ベッドに身を沈めラッコみたいな格好で天井を眺める。 カーテンが目の端で揺れるたびに、紙切れみたいな光の欠片が…

羽根と火の輪

夕暮の児童公園に火の輪が佇んでいる。 もう随分前にサーカスを追い出された、古ぼけた火の輪だ。 ちろちろと切れの悪い小便のような火を身にまとい、かつてその身をくぐらせたライオンや虎の顔を思い出して、ぼんやりと日を潰す。 藤棚の上で火の輪を睨む、…

蛇と笛

ずっと昔、酔った女を俺の部屋で介抱していた時、乾いた寝息を立てて眠る女の首筋に、いくつもの穴が空いているのを見つけた。 何気なく指で一つの穴を塞いでみると、女の寝息の音色が少し変わった。エキゾチックな感じの不思議な音色で、聞いていると体中の…

チョコレートで出来た友達が

チョコレートで出来た友達が軒下で夜を待っている夕暮時野鼠に齧られた鼻の頭を気にしながら君は、チカチカ光りはじめたエッチなお店のネオンを見つめている。 * チョコレートで出来た友達が夜を待ちながら軒下で歌を口ずさんでいる夕暮時君の喉の奥に居座…