トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

上手い人

珍しく早起きしたので、 ベランダに出て東の空を眺めていたら、 クレーンゲームのアームに掴まれた太陽が ゆっくり昇ってきた。 街が朝日に染まっていく。 気持ちがいい。 今日は上手い人で良かった。 昨日の人なんか途中で落として 一日夜だったもんな。

供養不足

描いてないけど。(「ICOON MONO」様の素材を使用させていただきました。)

ロミオとジュリエット

夏祭りに行った。屋台で金魚すくいをしていると、桶の端に一匹の小さな金魚がよじ登り、外へ逃げようとしているのに気がついた。屋台のおじさんにそれを伝えると、おじさんは黙って、金魚の視線の先を指さした。 そこにはたこ焼きの屋台があって、一本の蛸の…

栄養

壁の傷は、口内炎だった。

ジャングルジム

夜の公園がぼんやり明るいので見に行くと、 ジャングルジムの周りに、 オレンジに光る立方体が、 いくつもいくつも転がっていた。 細切れになった夕日だった。 夕日が沈む時、 ジャングルジムに引っかかって、 等分に切れてしまったらしい。 ゆで卵カッター…

ジャングルジム

ジャングルジムで遊んでいたら、 看護婦さんが慌てて俺を呼びにきた。 お母さんがエコー見たいって言ってるから、 すぐにお腹に戻ってちょうだい。 母ちゃん、父ちゃん。 のほほんとした顔で俺を見てるけど、 俺の指先は鉄くさいんだぜ?

視る

それが田んぼの畝ではなく、巨大な目尻の皺だと気づいた時には、もう、村に残されているのは私だけだった。

へそ

子どもの頃になくしたへそが、十年くらい前から、毎年夏になると、入道雲の下の方にくっついて姿を見せるようになった。へそがどういう心境でそんなことをするのかわからない。手でも振ればいいのか?ただ一つ言えるのは、俺のへそにしては随分出世したな、…

色のない雨

カーテンを開けると雨が降っていた。 久しぶりに色のない雨だった。 水のにおいの雨だった。 誰も泣かない雨だった。 今日はお気に入りの靴を履き、うつむかずに外を歩くことができる。 空を覆い隠す分厚い黒雲が、とても頼もしく見えた。

隙間風

あの音は、隙間風じゃなくて、私たちを呼ぶ、犬笛みたいなものなんだけど、あの音が聞こえるってことは、君もやっと、私たちの家族になれたんだね。

夏祭り

仕事帰りにいつもの裏路地を歩いていたら、どこからか祭り囃子が聞こえてきた。音の方に目をやるとほのかに明るい。今年もこの季節がやってきたのか、と思い光を目指して歩いていくと、思った通り、「夏祭り」と書かれた自動販売機が設置されていた。小銭を…

銀紙

ガムを噛んでいたら、味がなくなってきて、口の中から頭へ伝わる、くちゃくちゃという音が、味がなくなるにつれて、ギシギシという嫌な音に変わってきた。まるで古い学校のかびた廊下を誰かがゆっくり歩いてくるのを聞いているような、不安な音だった。その…

第二幕

昨夜の残りのカレーを食べようと鍋の蓋を開けると、鍋の中から青白い顔の女が恨めし気に私をじっと睨みつけていた。 時計を見ると午後一時半。 お昼時、カレー鍋、青白い女。 たぶん何か間違ったのだろうと思い、気づかなかったふりをして蓋を閉めた。 その…

怒号

「絶対に入らないでください」 そう釘を刺された分娩室から、妻の苦しそうな叫び声とともに、「絶対に出すな」 という医者の怒号が聞こえてきた。 何だか大変なことになっている。 居ても立っても居られず、少しでも様子を見ようと長椅子から立ち上がった時…

日記(にやにや)

8月9日 ××君は好きだけど、××君の家の近くにあるあの公園は嫌いだ。街灯に集まる虫たちの中に人間の耳が何枚も混じっていたので、夏の夜なのに、恋の話もできなかった。

物件の条件

あ、子どもの歯形、見えますか?でしたら、家賃が少しお安くなります。

海へかえっていく母の姿を見たとき、初めて母の鱗を美しいと思った。

友人の家に泊まりに行った時に指摘されて初めて知ったのだが、俺の眉毛は、俺が寝ている間、どこかに出かけているらしい。 朝目覚めると、時々、描いた覚えも剃った覚えもないのに、眉毛が太くなったり細くなったりしていたことがあったのだが、それは眉毛が…

大人になったら

箸の先に雲がまとわりついて、何を食っても雨の味がする。大きくなんてなるんじゃなかった。

プルプル

楽しみにしていたおやつのプリンを冷蔵庫から取り出し、スプーンですくおうとしたのだが、硬くてスプーンが通らない。 ああ、忘れてた。電池だ。 台所の戸棚から単四電池を持ってきて、プリンにセットすると、プリンはぷるぷると美味しそうに揺れ出した。 夢…

行方

校庭の隅にある木の近くで遊んでいた子が、また一人行方不明になった。 先生やお父さんやお母さんは監視カメラがどうとか、パトロールがどうとか大騒ぎしてる。 そろそろ誰か、あれは木じゃなくて「喉」なんですよ、って教えてあげた方がいいんじゃないかな。

はたはた

動物園の裏の道を通ると、飼育員らしきお姉さんが、物干し紐に洗濯物を干していた。形も大きさもバラバラな、茶色い布だった。ハンカチでも雑巾でもなさそうだ。よく見ると、キリンの茶色い部分だった。ということは、今日はキリンの檻はお休みか。つるんと…

日記(蚊)

8月1日 明日から田舎のおばあちゃんの家に泊まりにいきます。 カブトムシをたくさん捕まえたり、いとこの××ちゃんといっぱい遊びたいです。 おばあちゃんの家の周りには、人間の影の方を狙う蚊が出るから、夏休みが終わったあと、友だちと比べて、ぼくの影だ…

ずぼら

やばい。ついつい放置してしまっていた三角コーナーの中から、小さな咳が聞こえてくる。何かが湧いてしまったらしい。あーもー。

寝過ごした男

夕立が降り出した。 ほどなくして、どかん、と雷の音が辺りに鳴り響いた。 しかし、音はするが、どこを見回しても、空に稲光が見当たらない。 不思議なこともあるものだと思っていると、稲光を束にして肩に担いだ職人風の男が、大慌てで雨の中を雷鳴の方へ駆…

プルタブ

この間、床屋で髪を切ってもらっている時、頭のてっぺんにプルタブが付いていることに初めて気がついた。 この床屋には何度も来ているが、そんなことを指摘されたのは初めてだ。床屋の親爺も首をかしげている。最近になって付いたものらしい。先日、長年勤め…

上客

オーロラの正体が、付け合わせのレタスだったことに、地球がこんな風になった後で気づくなんて。ねぇ?

日記(落とし物)

7月27日 公園を散歩していたら、帽子が風に飛ばされて池に落ちてしまった。拾い上げようと池を覗き込んだ。誰かがかぶっていた。

七時

朝、新聞のテレビ欄に目を通すと、今夜七時からの生放送の番組に、僕の名前が載っていた。「死に顔を予想して豪華景品を当てよう!」 そうか、今週は僕なのか。 いつもの通勤電車に揺られながら、ぼんやりと考える。 あの番組が始まった時から観てたけど、結…

日記(そわそわ)

7月25日 雲一つない青空の真ん中に、雑巾が一枚落ちていた。今夜は夏祭りがあるから、そわそわしていたんだろう。