超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ジャングルジム

 夜の公園がぼんやり明るいので見に行くと、
 ジャングルジムの周りに、
 オレンジに光る立方体が、
 いくつもいくつも転がっていた。

 細切れになった夕日だった。

 夕日が沈む時、
 ジャングルジムに引っかかって、
 等分に切れてしまったらしい。
 ゆで卵カッターを使った時のように。

 一つ拾い上げると、
 夜の冷気ですっかり冷たくなっていた。
 光に誘われてきたらしい羽虫が、
 よちよちと歩き回っていた。

 明日から、夕暮れ時、
 何を見て遠い目をしたらいいのだろう。

 軽く叩くと、もふもふと不思議な音がした。

へそ

 子どもの頃になくしたへそが、十年くらい前から、毎年夏になると、入道雲の下の方にくっついて姿を見せるようになった。へそがどういう心境でそんなことをするのかわからない。手でも振ればいいのか?ただ一つ言えるのは、俺のへそにしては随分出世したな、ということだけだ。

色のない雨

 カーテンを開けると雨が降っていた。
 久しぶりに色のない雨だった。
 水のにおいの雨だった。
 誰も泣かない雨だった。

 今日はお気に入りの靴を履き、うつむかずに外を歩くことができる。
 空を覆い隠す分厚い黒雲が、とても頼もしく見えた。