超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

虹とカメラ

 虹が出た。
 若い男がロープを持って、自転車で駆けていった。
 虹に縄をかけて、首を吊るのだろう。
 最近、若い人の間で、そういうのが流行っているのだ。
 虹が出れば、そこで誰かが首を吊る。
 誰かが虹で首を吊れば、それを誰かが写真に撮る。
 そういうのが流行っているのだ。
 そういう写真をコレクションしている人が、去年の夏、××坂の喫茶店で個展を開いた。
 私も妹とそこを訪れた。
 私には何だか、みんな同じ顔をしているように見えたが、妹は一人の男の写真の前で立ち止まり、「兄さんにそっくり」と笑っていた。
 土産物のコーナーに行くと、絵葉書が売られていた。
 妹が私にそっくりな男のものを探したけれど、なかった。
 だから帰りにでんき屋に寄って、妹にカメラを買った。

日記(シーソー)

××月×日

 夜中の2時頃、外から金属の軋む音が聞こえてきた。裏の公園の方から聞こえてきたから、きっとあの女だろうと思った。カーテンを開けて外を見ると、案の定、街灯の光に照らされて、シーソーが上下に動いていた。シーソーの片側には長い髪の女。そしてその反対側には骨壺。どこの誰かは知らないが、時々ああして公園にやってきては、骨壺とシーソーをしているのだ。よく骨壺が滑り落ちないものだと感心する。

××月××日

 夜中の2時頃、また公園の方からシーソーの音が聞こえてきた。うんざり半分、興味半分でいつものようにカーテンを開けて目をこらすと、上下するシーソーの両側に骨壺が置かれていた。

竜宮城

 活け作りを注文する。板前は威勢のよい返事とともに、濁った生け簀に腕を突っ込む。しばらくごそごそと水をかき回した後、生け簀から出てきた板前の手には、小さな酸素ボンベが握られている。
「すぐに浮かんできますから」
 板前はそう言って爽やかに笑う。傍らの生け簀の底から、無数の濡れた目が私を睨みつけている。