超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

象のなる木

 今年も象のなる木に元気な子象が実をつけました。太陽の光と、この土地の綺麗な水のおかげで、すくすくと順調に育っています。夏頃には枝が折れ、元気な産声が私たちの耳に届くことでしょう。今から名前をつけるのが楽しみです。
 写真は間引きを手伝ってくれた学生アルバイトの皆さんです。

蜥蜴

 一年に一度か二度、死んだ妹の夢を見る。
 死んだ妹の夢を見た時は、目覚めると必ず何か一つ私のものがなくなっている。
 今回は舌だった。
 ベッドの下にもパジャマのポケットにも見当たらない。
 台所に行って筆談で母にそのことを伝えると、母は「じゃあ今朝は朝食抜きね」と言って笑った。

父と子

 病院のベッドで眠る身重の妻の傍でうたた寝をしていたら、突然、「じゃーんけーん!」という子どもの声が病室に響いた。
 反射的にチョキを出して、それから辺りを見回すと、妻がお腹をおさえながらうなされていた。
 慌てて布団をめくると、妻のお腹の真ん中辺りが、パーの形に盛り上がっていた。

 次の日生まれた息子は、今のところ本当に素直で従順な人間に育っている。

ハリウッド

 夜中、眩しい光で目が覚めた。一人暮らしの部屋の天井に、テレビの光がちらついている。
 不審者かもしれない。音を立てないように身を起こし、テレビのある方へ目をこらすと、窓際に置かれているはずの鉢植えのサボテンがテレビの前で、西部劇の荒野をじっと見つめていた。