超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ツタ

 遊び人だった父の葬儀会場に、何かの植物のツタがにょろにょろと入ってきて、器用に線香をあげ、再びにょろにょろと帰っていった。
 葬儀が終わった後、親戚や父の友人にさっきのツタについて訊いて回ったものの、結局正体はわからずじまいだった。
 とりあえず今は近所の庭や花壇を注意深く観察し、父っぽい花を探す日々を送っている。

晩鐘

 夕方の鐘の美しい音色が、茜色の町に響いている。
 人通りもまばらな裏通りを歩きながら私は、ポケットに忍ばせていた彼の耳を取り出し、染み込ませるように鐘の音を聞かせてあげる。
 部屋で眠る彼の夢が少しでも美しいものになるように祈りながら。