2017-03-11 生きものの記録 マリコからきいた話 のぼり坂を機嫌よく歩いていたら、それまで吹いていた心地の良い風がとつぜん凪いでしまった。 お母さんから渡された買い物のメモを握りしめたまま、不安になって立ち止まる。 耳を澄ますと、坂の上の丘の向こうから、ペンを動かす音が響いてきた。 どうやらまだ続きが出来上がっていないらしい。 今度の人はずいぶん遅い。 前の人の方が早かった。 まあ、前の人はお母さんを病気にしてしまったけど。
2017-02-25 ニューヨークニューヨーク クミコからきいた話 真昼間の波止場で、腹から血を流して倒れている男 目をいっぱいに見開いて、天高く輝くアレが、おっぱいなのか太陽なのか確かめようとしている。 さようなら。
2017-02-11 めまい クミコからきいた話 自転車のかごに神様の首を放り込んで、野球帽の少年が山道を駆け下りていく。 少年の火照った胸にまとわりつく汗を、夏の風が心地よく舐めていく。 自転車のかごの中で揺られる神様の首を見ながら少年は、同級生の驚く顔を想像する。 これで俺が一番だ。 上機嫌な少年はほくそ笑み、いつもの駄菓子屋の前に自転車を停める。 一方、それと時を同じくして、少年の家では、まだ幼い彼の妹のおっぱいが、突然かたく張り出していた。
2017-01-28 鈴と金魚 トモコからきいた話 誰かが落とした鈴を飲み込んだ金魚が、縁日の屋台の桶の中をりんりんと泳ぎ回っている。 鈴の分だけ体が重いから、誰にもこの金魚をすくうことはできない。 祭の灯が消え縁日から人が去る頃、ほとんど空っぽになった桶を片付け、「しかたねえなお前は」と愚痴りながら、今日も屋台の親爺は金魚とともに家に帰る。 飯を食い風呂を浴び、鈴の音を聴きながら酒を呑むとき、こいつにそろそろ名前でも付けてやろうかと、親爺はぼんやりそんなことを考える。
2017-01-14 ファミリーサーカス マリコからきいた話 私がまだ幼かった頃星を盗んで食べたことがあります 怒ったお月様に追いかけられてよく噛みもせず慌てて飲み込んだもんだから大人になった今でもお腹の中で星は光ったままです だから今まで子どもは何人も出来たけど皆「まぶしい」と言って生まれる前に去ってしまいます