超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

鈴と金魚

 誰かが落とした鈴を飲み込んだ金魚が、縁日の屋台の桶の中をりんりんと泳ぎ回っている。
 鈴の分だけ体が重いから、誰にもこの金魚をすくうことはできない。

 祭の灯が消え縁日から人が去る頃、ほとんど空っぽになった桶を片付け、「しかたねえなお前は」と愚痴りながら、今日も屋台の親爺は金魚とともに家に帰る。
 飯を食い風呂を浴び、鈴の音を聴きながら酒を呑むとき、こいつにそろそろ名前でも付けてやろうかと、親爺はぼんやりそんなことを考える。

ファミリーサーカス

私がまだ幼かった頃
星を盗んで食べたことがあります

怒ったお月様に追いかけられて
よく噛みもせず慌てて飲み込んだもんだから
大人になった今でも
お腹の中で星は光ったままです

だから
今まで子どもは何人も出来たけど
皆「まぶしい」と言って
生まれる前に去ってしまいます

月と葡萄

今日が終わり、
今日がまた来る。

ふと見上げた夜空には
満月がいくつもいくつも浮かんで
まるで葡萄の房のようだ。

また少し狭くなったベッドの中で
私が私の指に指を絡ませてくる。

また少し明るくなった月明かりから逃れるように
私が私の手から毛布を奪う。

月になる

 夜中にこっそりベッドを抜け出し、夜空に寝そべり、黄色い毛布をすっぽりかぶり、満月のマネをしてふざけていた姉は、やがて夜の闇に少しずつかじられて、半月になり三日月になり、とうとう跡形もなく消えてしまった。
 次の日の朝、病院の人は、誰もいないベッドのシーツを換えながら、「たまにあるんだ、こういうこと」とため息をついていた。