2017-01-28 鈴と金魚 トモコからきいた話 誰かが落とした鈴を飲み込んだ金魚が、縁日の屋台の桶の中をりんりんと泳ぎ回っている。 鈴の分だけ体が重いから、誰にもこの金魚をすくうことはできない。 祭の灯が消え縁日から人が去る頃、ほとんど空っぽになった桶を片付け、「しかたねえなお前は」と愚痴りながら、今日も屋台の親爺は金魚とともに家に帰る。 飯を食い風呂を浴び、鈴の音を聴きながら酒を呑むとき、こいつにそろそろ名前でも付けてやろうかと、親爺はぼんやりそんなことを考える。
2017-01-14 ファミリーサーカス マリコからきいた話 私がまだ幼かった頃星を盗んで食べたことがあります 怒ったお月様に追いかけられてよく噛みもせず慌てて飲み込んだもんだから大人になった今でもお腹の中で星は光ったままです だから今まで子どもは何人も出来たけど皆「まぶしい」と言って生まれる前に去ってしまいます
2016-12-03 月と葡萄 マリコからきいた話 今日が終わり、今日がまた来る。 ふと見上げた夜空には満月がいくつもいくつも浮かんでまるで葡萄の房のようだ。 また少し狭くなったベッドの中で私が私の指に指を絡ませてくる。 また少し明るくなった月明かりから逃れるように私が私の手から毛布を奪う。
2016-11-19 月になる クミコからきいた話 夜中にこっそりベッドを抜け出し、夜空に寝そべり、黄色い毛布をすっぽりかぶり、満月のマネをしてふざけていた姉は、やがて夜の闇に少しずつかじられて、半月になり三日月になり、とうとう跡形もなく消えてしまった。 次の日の朝、病院の人は、誰もいないベッドのシーツを換えながら、「たまにあるんだ、こういうこと」とため息をついていた。