さよなら、愛しているよ。
真っ二つに切られる直前、トマトは確かにそう叫んだ。
べとべとになった手を洗い、冷蔵庫を開けると、レタスときゅうりがほのかに赤く色づいていた。
野菜室の中で何があったか知らないが、今日の夕方こいつらを八百屋で買ったとき、店のオヤジがほっとしたような顔をしていたのをふと思い出した。
いつもより少しイライラしながら一人分のサラダを作り、念入りに噛み砕く。
早くうんこになってくれないかなと、思っている。
弟か妹のつもりで接していた屋根裏のネズミがある日、俺の部屋にお別れを言いに来た。いつものぼさぼさの毛皮ではなく、小さな宇宙服を着て、小さなヘルメットを小脇に抱えていた。
天井を指さすので、天井の板を外し屋根裏を覗くと、小さな通信機の光のチカチカの向こうに、小さなロケットのシルエットが堂々とそびえていた。
餞別の絆創膏をネズミに手渡して、目的地に着いたら手紙でもくれよと言うと、ネズミは少し笑ってチュウと答え、俺の服の中にもぐりこみ、へそにキスをして屋根裏に戻っていった。
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その日の晩、天井からぶら下がる裸電球を眺めながらベッドに寝転んでいたら、予期せぬ轟音とともにアパートがブルブルと揺れた。
ネズミのロケットが発射されたらしい。
慌てて窓の外を見ると、ねじれたロウソクみたいな変な形のロケットが、真っ直ぐ夜空に向かって飛び去っていくところだった。
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発射の時の衝撃でアパートはしばらく停電になるし、部屋も廊下もあちこち埃だらけになるし、屋根に大きな穴が空いて管理人は怒っているし、まったくしょうがないやつだと思いながら、今は毎日ポストを覗いて、ネズミからの手紙をひそかに待っている。